『ソウX』ケヴィン・グルタート監督 ジグソウがいなければ成立し得ない『ソウ』ワールド【Director’s Interview Vol.445】
主演俳優トビン・ベル、彼はまさにジグソウそのもの
Q:ジグソウ役のトビン・ベルには以前、取材させていただいたことがありますが、まさにジョン・クレイマーそのままの哲学者のような方だと感じました。一緒に仕事をされている立場として彼をどう見ていますか? グルタート:トビンも僕も、生涯のなかで自分が関わった最高の作品は『ソウ』シリーズだと考えています。トビンにはジョン・クレイマーというキャラクターをずっと演じてきた経験値があり、同時にジョンが何を考えているのかを深く掘り下げています。ジョン・クレイマーは末期ガンに冒されたことで怒りの感情を抱いているけれど、それ以前の善人であった頃のジョンに、トビン自身は似ているのかもしれませんね。彼自身、存在感の強い人なので一緒にランチをしていると、ふとジグソウと一緒に食事しているような、そんな錯覚に陥ります(笑)。 Q:トビン・ベルとのコラボレーションは、どのようにして進められるのですか? グルタート:たとえば、ジョンの何気ないセリフ一つとっても、彼はその意味を探索し、その気持ちになろうとします。そのため、セリフの中にジョンが言わないであろうことが含まれていると、そのセリフを頑なに拒否するんです。それに彼はジグソウを決して“殺人犯”とは呼ばない。“死のアーティスト”という言葉でさえ、彼にとっては誇張された表現です。彼にとってジョンは、あくまで“人間”なのです。 Q:今回の映画で彼に拒否されたセリフはありましたか? グルタート:あったかもしれないけれど、思い出せません(笑)。僕らも長く一緒に仕事をしているので、彼が口にしないであろうセリフは大体わかっています。仮にトビンがセリフで引っかかったりすると、それが納得いかないことは彼の目線でわかります。
『ソウ』シリーズの本質とは? 10本作ってわかったこと
Q:『ソウ』シリーズはトラップのバイオレンスばかりがクローズアップされ、ドラマ面の面白さについてはあまり語られませんが、それについてはどう考えていますか? グルタート:『ソウ』のファンがトラップの面白さを求めていることは理解していますが、やはりドラマがあってこそのトラップだと思います。『ソウX』に関して言えば、古代ギリシャの詩人ホメロスの叙事詩を持ち出すと大げさに聞こえるかもしれませんが、今回のジョンの旅はそういうものだと思っています。ジョンはある種の英雄で、知らない土地、つまりメキシコに行き、そこで使命を果たそうとする。そういう意味ではシリーズ中、もっともシンプルなストーリーですね。これまでのシリーズはサプライズにこだわり、ヒネッてヒネッてヒネリ続けてきたけれど、本作にあるのは違う種類のサプライズです。 Q:『ソウX』をつくるうえで、映像面ではどんなことを心がけましたか? グルタート:1作目で築かれたジャーロ映画のスタイルを継承しつつも、これまでの『ソウ』とはまったく違うものになったと自負しています。というのも、『ソウX』ではこれまでのシリーズとは違って、昼間の屋外シーンが多いんです。『ソウ』の世界にこれを入れ込むと、ダークな空気を壊しかねないので苦労しました。メキシコのカラッとした空気感は、マカロニウエスタンのそれに近いですね。また、メキシコの街をジョンが歩くシーンは『ハンニバル』(01)でレクター博士がフィレンツェを徘徊するシーンをイメージしました。他の作品で参考にしたのは、『 マーターズ』(08)や『ドラゴン・タトゥーの女』(11)、『ジョーカー』(19)、『マリグナント 狂暴な悪夢』(21)です。 Q:『ソウ』シリーズに最初から関わってきた立場として、この10作・20年を振り返り、どんなことを思いますか? グルタート:10本作ってきて、それぞれにチャレンジはありますが、振り返るとクオリティの差はどうしても出てきますね。私が初めて監督をしたのは『ソウ6』(09)ですが、その頃は、それまでの監督たちがやってきたこと、自分がやりたいこと、やりたくないことを考えながら作りました。それがすべてうまくいったわけではありません。今回の『ソウX』では、そんな過去から学んだことを反映しました。シリーズを通じて、ストーリー開発からアイデアの視覚化まで、本当に多くのことを学びました。私の結論としては、独創的なトラップがあり、キャラクターのリアルな感触があり、クレイジーな世界があってこその『ソウ』シリーズだと思っています。 監督/編集:ケヴィン・グルタート カリフォルニア州パサデナで生まれ、ポリテクニック・スクールを卒業後、南カリフォルニア大学で映画製作の学士号を取得している。キャリアの初期には、ホラー映画監督ジョージ・ロメロの『ダーク・ハーフ』の編集見習いとして働き、その後ホラーコメディーの『アーネスト モンスターと戦う!』に携わる。 『タイタニック』や『アルマゲドン』などの映画で編集者として昇格し、ケヴィンはジェームズ・ワンのホラー映画の古典『ソウ』の編集を担当した。彼はソウの続編も担当し、 『ソウ 6』で長年の夢であった監督となり、続いて『ソウ ザ・ファイナル 3D』の監督も務めた。世界興行収入が 10 億ドルを超えるこのシリーズは、複雑なプロット、独創的なビジュアルデザイン、編集の速さ、そして魅力的な音楽と効果音の使用で知られている。彼はソウの 10 本の映画全てに何らかの形で関わり、 『ソウX』では監督と編集をするに至った。このプロジェクトで彼はジョン・クレイマー役のトビン・ベルを再び起用し、シリーズの長年のファンやホラー映画を初めて見る観客のどちらも満足させる作品にしようと尽力した。また彼はホラーの達人ジェイソン・ブラムと協力してライオンズゲートとブラムハウスのホラー映画『ジェサベル』を監督し、セーラ・スヌークとマーク・ウェバーが出演した。またユニバーサルとブラムハウスの『ヴィジョン/暗闇の来訪者』を監督し、アイラ・フィッシャーとアンソン・マウント、エヴァ・ロンゴリア、ジム・パーソンズが出演した。これらのもの悲しい超自然の物語は豪華な音楽と映像、そして力強い主演女優の演技により、 『ソウ』の世界からスタイルを一新した。彼はまた『ジャッカルズ』という宇宙人が襲来するスリラーを監督し、スティーヴン・ドーフ、デボラ・カーラ・アンガー、ジョナサン・シェックが出演している。ケヴィンは、ブライアン・ベルティノ監督の古典『ストレンジャーズ/戦慄の訪問者』や『バーバリアン』、『獣の棲む家』、『The Blackening』など、ホラーやスリラー分野の多くの映画で編集の才能を発揮し続けている。熱心な冒険家でもある彼は、アジアやヨーロッパ、そして北アフリカを旅した。また、彼はJ・G・バラードの「Ambit」という雑誌に小説を寄稿したり、ポール・ボウルズのドキュメンタリー『Things Gone and Things Still Here』を含む映画の音楽もいくつか手がけたりしている。趣味はピアノ、絵を描くこと、読書、模型飛行機を飛ばすこと。『オズの魔法使』や『巴里のアメリカ人』などで活躍したMGMの彫刻家ヘンリー・グルタートの孫でもある。 取材・文:相馬学 情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。 『ソウX』 10月18日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開 配給:リージェンツ ©2024 Lions Gate Ent. Inc. All Rights Reserved.
相馬学
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