映画『FEAST ‒狂宴‒』家族を喪った側と、喪わせた側、2家族の愛と葛藤の末の選択は
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Navigator ●折田千鶴子さん 映画ライター 3月は、双子の息子の中学卒業で気忙しい。あっという間の3年間に、驚くやら寂しいやら……。
『FEAST ‒狂宴‒』
▶家族を喪った側と、喪わせた側、2家族の愛と葛藤の末の選択は 一瞬も目が逸らせない緊迫感に満ちた傑作『ローサは密告された』(’16/カンヌ国際映画祭・主演女優賞受賞)のブリランテ・メンドーサ監督が、またも放った“とても他人事とは思えない”問題作。さて、あなたはどっちの家族に肩入れして観る!? いや多分、どっちにも。両者ともに悪人ではない、むしろ善人だからこそ、はらむ問いは複雑で深い。 カトリックの国、フィリピン。対照的な2家族が市場で買い物をしている。祝い事には一族が集い、盛大な会を催す裕福な一家の父アルフレッドと息子ラファエル。一方、水道などインフラ整備が遅れた貧しい地域に住むが、陽気な父マティアスを中心に、いつもにぎやかで笑顔が絶えない一家。市場からの帰り道、ラファエルが運転する車が、娘をサイドカーに乗せたマティアスのバイクと衝突事故を起こす。とっさにアルフレッドは息子を助手席に移動させ、自分が運転しその場を離れる。人々が集まり始め、娘は助かるが、やがてマティアスは帰らぬ人に──。 立ち去った2人を「極悪人!」と大いに非難したくなるだろう。彼らの行動には言い訳の余地もないが、さりとて“もし自分なら?”と自問すると、絶対に逃げない選択をしたいが、100%自信があるとも言い難い。その後、罪の意識にかられるラファエルの姿や言動を目にするほどに動悸は速まり、胸が痛くなる。また若い息子を罪人にしたくないアルフレッドの気持ちも理解できてしまう。しかも落ち着きを取り戻した後、妻/母親の一声も効き、彼らは遅ればせながら正しい行いをしようと奔走する。 一方でマティアスを亡くした妻と子どもたちは、悲しみに沈み、途方に暮れる。だが現実問題、どうにかして生きていかねばならない。やがてアルフレッドは息子の罪を被って服役し、件(くだん)の遺族を一家の使用人として雇い入れ、両家族は穏やかに暮らしていた──。 互いを労わり合う姿に、“なるほど、その手があったか!”とひざを打ち、心はポカポカ温まる。世界中で出口の見えない憎しみの連鎖を目の当たりにしているだけに、ある種、理想的な解決法とも映る。だが、社会の矛盾や不条理をえぐってきた社会派監督のメンドーサは、そこで解放してはくれない。その証拠に、どこかモヤモヤする感覚は何だ。歴然と存在する上下関係、感謝すべき? 恨みはない? もし逆の立場だったら? 次々疑問が浮かんでは、胸の奥に沈殿する。そうしてアルフレッドの出所祝いの宴が、使用人らの手によって着々と準備されていく。果たしてその宴で何が起きるのか!? 格差も含めた市井の人々の暮らし、色鮮やかな野菜や肉・魚を使ったフィリピンの郷土料理、信心深さが反映された生活様式や家族観など、いろんな興味や見どころも詰まっている。“第3黄金期”と称されるフィリピン映画の勢い、リアルな息遣いをとらえた“メンドーサ・メソッド”も刺激的。観る者が最後に何を感じ、考えさせられるか、個々人が試される必見作だ。 全国順次公開中 ※公式サイト あり