“挑戦”の日々で築いた『THE FIRST TAKE』5年の軌跡とこれから
2024年11月15日、一発撮りのパフォーマンスを鮮明に切り取るYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』が5周年を迎えた。チャンネル登録者数1,000万人を突破し、日本の音楽メディアのひとつとなった『THE FIRST TAKE』。その5年間の歩みを、改めて振り返りたい。 写真:『THE FIRST TAKE』5年史をもとに作成した年表 ■2019年:『THE FIRST TAKE』開設 2019年11月15日、アーティストの一発撮りパフォーマンスを鮮明に切り取るYouTubeチャンネルとして『THE FIRST TAKE』はスタートした。 最初に公開された動画は、上白石萌歌のクリエイティブコンソーシアム・adieuの「ナラタージュ」だ。 作詞作曲はRADWIMPSの野田洋次郎。上白石萌歌の歌声の表現力が生々しく伝わってくる。真っ白な空間、音源とは異なる独自のアレンジ、アーティストの息遣いまで感じるパフォーマンスと、今も変わらぬ『THE FIRST TAKE』の原点がここにある。 2019年は、音楽の聴き方が徐々にストリーミング中心へと移り変わっていった時代。YouTube上の音楽番組は、当時の日本ではまだまだ目新しい存在だった。 しかし、『THE FIRST TAKE』はTVアニメ「鬼滅の刃」のオープニングテーマとして人気を集め、2019年を代表するヒット曲となったLiSA「紅蓮華」の圧巻のパフォーマンスもあり、注目度が急上昇。その“ライブでもなく、レコーディングでもない、新しい音楽体験”が広まっていった。 ・・・・・ ■2020年:苦境をあらたな表現の場に 新型コロナウイルス感染症拡大を受け、世界が一変した2020年。外出自粛期間が続き、エンターテインメント全般も大きな打撃を受けることに。そんなステイホームの期間中にも『THE FIRST TAKE』は歩みを止めることはなかった。 ----- ◎ステイホーム期間に誕生した『THE HOME TAKE』 5月1日に公開されたmiwa「don\'t cry anymore」を皮切りに、アーティストの自宅やプライベートスタジオから一発撮りを届ける『THE HOME TAKE』という新企画を始動し、数々の動画を公開。2020年を代表するヒット曲となったYOASOBI「夜に駆ける」を筆頭に大きな反響を集めた。 ----- ◎韓国と日本をリモートで繋いで収録する、初の試みにも挑戦 また、6月26日に公開されたStray Kids「SLUMP -Japanese ver.-」では初となる韓国とリモートで繋いでの収録も実現。K-POPアーティストの初登場の場にもなった。 ----- ◎新しい時代のフェスの形を提示 9月にはあらたなフェスの形として『THE FIRST TAKE FES』を提示。 無観客のライブハウスで没入感溢れるパフォーマンスを収録し、全3回のイベントを開催した。 コロナ禍でライブやフェスが制限され、音楽シーンの動きが止まっていた苦境のなかでも、『THE FIRST TAKE』はあらたな試みの数々を打ち出していった。 ・・・・・ ■2021年:ひとつの表現の場として定着 着実にチャンネル登録者数が増え、『THE FIRST TAKE』がひとつのメディアとしてのポジションを築き上げてきた2021年。 “一発撮りのパフォーマンスを鮮明に切り取る”というコンセプトが浸透したこともあり、『THE FIRST TAKE』はアーティストにとっても様々なトライができる表現の場として定着する。 ----- ◎名曲たちのあらたな表情に出会う 例えば、JUJU「やさしさで溢れるように」では、同曲のプロデューサーである亀田誠治がベース、オリジナル録音を共にした斎藤有太がピアノを担当するという凄腕ミュージシャンが集結した特別編成だったり、珠玉のバラードとして名高いHY「366日」では、バンドアレンジにカルテットストリングスを加えたアコースティックアレンジでのパフォーマンスを披露し、自身の代表曲をキャリアを重ねたタイミングだからこそできるさらなる深みを持ったアレンジで届けたいという意志が感じられる。 ----- ◎新体制一発目を飾る場所として また、いきものがかりは2人体制となった一発目の露出として初出演。ふたりの凛とした表情からは変化を示す旅立ちの場として『THE FIRST TAKE』を選んだ決意も伝わってきた。 ----- ◎あらたな才能が羽ばたく場所 そのいっぽうで、『THE FIRST TAKE』はあらたな才能が羽ばたく場所にもなった。 一発撮りオーディションプログラム『THE FIRST TAKE STAGE』では、シンガーソングライターの麗奈がグランプリを獲得。全国5,000組以上の応募者の中から選ばれた彼女の伸びやかで繊細な歌声が注目を集めた。 ----- ◎『THE FIRST TAKE』発のコラボレーション さらには『THE FIRST TAKE』発のコラボレーションも実現。 2020年にLiSA×Uruによる「再会 (produced by Ayase) 」が話題を集めたが、コラボレーション第2弾では、milet×Aimer×幾田りらという、それぞれ人気と実力を兼ね備えた3名の女性シンガーがVaundyプロデュースの楽曲「おもかげ (produced by Vaundy)」で初共演。 豪華な顔合わせで実現した“ここだけの化学反応”は大きな反響を呼び、『第73回NHK紅白歌合戦』出場にも結びついた。 ・・・・・ ■2022年:裾野を広げるための行動 2022年は『THE FIRST TAKE』がさらに新しい一歩を踏み出した年と言えるだろう。 ----- ◎初の有観客ライブ開催 5月3日・4日の2日間、初の有観客ライブとして『INSIDE THE FIRST TAKE』を開催。千葉県・舞浜アンフィシアターで開催された同ライブでは2日間で4,000人を集めた。 観客の拍手や歓声も禁止された緊張感漂う空間で、楽曲の背景やアーティストの内面に迫るドキュメンタリー映像の上映もあわせて行われた没入型のライブは、単なる一発撮りの公開収録にとどまらない画期的な企画となった。 ----- ◎“バズ”を敏感にキャッチする TikTokの影響力が浸透し、SNS発のバイラルヒットが次々と生まれるようになったこの年。 『THE HOME TAKE』にも登場したTani Yuukiがデビュー曲「Myra」を上回るロングヒットとなった「W/X/Y」を『THE FIRST TAKE』にてパフォーマンス。この年の『TikTok流行語大賞』にもノミネートされた、PUFFYのリバイバルヒット「愛のしるし」は、バズの広がりをいち早くキャッチアップしたタイミングで『THE FIRST TAKE』での披露となった。 音楽本来の魅力を見せるチャンネルの魅力は、トレンドと連動することでより真価を発揮したはずだ。 ----- ◎海外アーティストの“一発撮り”が実現 初の海外アーティストとして、Harry Styles(ハリー・スタイルズ)の『THE FIRST TAKE』出演が実現したのも2022年である。 中国からはスー・ルイチー (Sury Su)が初登場を果たし、ここから『THE FIRST TAKE INTERNATIONAL』として広がっていくこととなる。 世界を代表するポップスターによる“ここだけのパフォーマンス”は、『THE FIRST TAKE』の知名度をワールドワイドに広げるきっかけにもなったはずだ。 ----- ■2023年:“緊張”から“楽しむ”場へ 2023年の『THE FIRST TAKE』では、さらなる多様なパフォーマンスが話題を呼んだ。 ◎『THE FIRST TAKE』初のVTuberが登場 星街すいせい「Stellar Stellar」は、初のVTuberの一発撮りとなった。 その話題性だけでなく、彼女の歌声の魅力が評価を集めたことも、VTuberのカルチャーと音楽シーンの橋渡しをするひとつのきっかけになったように感じる。 ◎緊張の場を楽しむアーティストたちも登場 また、一発撮りに真っ向から向き合う緊張感たっぷりの空気感が多かった当初からのムードにも、徐々に変化が見られていた。 例えば、ブレイク真っ只中のタイミングで出演した新しい学校のリーダーズは、「オトナブルー」で持ち前の迫力とインパクトたっぷりのダンスパフォーマンスを披露。 Da-iCEは「スターマイン」をスペシャルなアレンジで披露するだけでなく、その場のハプニング自体を楽しむような冒頭の掛け合いも見どころだ。 ----- ◎自己肯定感をあげる、ポジティブソング 笑顔で踊りながら歌った藤井隆「ナンダカンダ」や熱いエネルギーをぶつけたサンボマスター「できっこないを やらなくちゃ」など、観る人の気持ちをぐっと持ち上げるようなポジティブな楽曲のパフォーマンスも印象的だった。 2023年は、3年あまり続いたコロナ禍がようやく収束してきて、制限の緩和を受けて世の中にそれまでと変わらない日常がほぼ戻ってきた年でもある。 『THE FIRST TAKE』にも、ライブやフェスの華やかで熱気溢れるムードと地続きのパフォーマンスが増えていた。 ・・・・・ ■2024年:時代のニーズに合わせた挑戦 2024年も『THE FIRST TAKE』は数々の現象を生み出している。 ◎解散日、最後に残したメッセージ 2月19日、東京ドーム公演にて解散したBAD HOPは、その同日に『THE FIRST TAKE』に初登場し「Champion Road」「Kawasaki Drift」の2曲をパフォーマンス。川崎からメインストリームへと駆け上がり、ヒップホップの可能性を見せた彼らによる、最後のメッセージは大きな話題を集めた。 ----- ◎世界的人気を誇る話題曲のパフォーマンス Creepy Nutsは世界的なブームを巻き起こした「Bling-Bang-Bang-Born」を披露。TVアニメ『マッシュル-MASHLE- 神覚者候補選抜試験編』オープニングテーマとして書き下ろされた同曲は、彼ら自身のメディア初パフォーマンスとなった。 2020年の初登場から『INSIDE THE FIRST TAKE』も含め、たびたび出演してきた『THE FIRST TAKE』とは縁深い彼らにとって凱旋の場とも言えるだろう。 ----- ◎ムーヴメント真っ只中で『THE FIRST TAKE』に殴り込み! さらにはKOHHから本名名義で音楽活動を再開した千葉雄喜が「チーム友達」で初登場。 ヒップホップシーンから一躍流行語となり、ミーガン・ジー・スタリオンがリアクションするなど海外にも広まったムーブメントの真っ只中でのメディア初パフォーマンスとなった。 ----- ◎感動と興奮が再び!再結成アーティスト 再結成を果たしたアーティストにとっても『THE FIRST TAKE』が大きな役割を果たしている。 約6年を経て再結成したAqua Timezは「虹」、メジャーデビュー40周年で再集結した爆風スランプは「Runner」をパフォーマンスし、復活を飾っている。 ----- ◎『FLASH THE FIRST TAKE』 8月には、アーティストたちが60秒の一発撮りパフォーマンスに挑戦する新プロジェクト『FLASH THE FIRST TAKE』が始動。 初回には『THE FIRST TAKE』と同じく、adieuが出演を果たしたことでも注目を集めた。 縦型動画プラットフォームが浸透し、ショート動画が好んで視聴されるようになってきた風潮で、この試みも音楽のあらたな表現スタイルを切り拓いていくはずだ。 ・・・・・ ■『THE FIRST TAKE』が見据える未来 こうして年表とともに『THE FIRST TAKE』の歩みを見ていくと、この5年間で貫いてきた“変わらないこと”と“変わってきたこと”が改めてわかる。 基本的なアティテュードはずっと変わらず、高音質、高画質でアーティストの一発撮りのパフォーマンスを切り取り、その魅力を伝えること。そのことはずっと貫いてきている。 そのいっぽうで、社会のムード、メディアの変化やその時々のトレンドに合わせて、様々な試みを打ち出してきた。決して同じことを繰り返すだけでなく、時代に合わせて柔軟に対応しているのだ。 話題を呼んだ楽曲をいち早くピックアップしたり、アーティストにとってのターニングポイントとなる場となったり、音楽シーンの動きを伝えるメディア的な役割を果たすようになってきたのもポイントのひとつである。 この先も『THE FIRST TAKE』は、様々な音楽の魅力を鮮烈に伝える場となっていくだろう。その未来に期待したい。 TEXT BY 柴那典
THE FIRST TIMES編集部