「ニュースをTikTokで観る」動画隆盛の時代の〝テキストの役割〟とは テレビ制作者が文章を書く理由
「隣の芝は青い」から次に進むために
――「ニュースをTikTokで観る」人も増えるなど、動画コンテンツが隆盛を極めています。足立さんはテレビ局の記者、制作者としてそこに大きな強みを持ちながら、テキストコンテンツも作り続けています。なぜですか? そこはやっぱり、SNSでのシェアと検索を重視しているからです。 この10年は、SNSによるメッセージや情報のシェアが社会を動かす革命がいくつも起きました。一方で異なる意見同士の対立や断絶も深刻化していますが、「検索」という行為には、いわゆる「フィルターバブル」を超えて情報を届けられる可能性があると、これはSEOの専門家からの受け売りです。 情報を広く届けるために、シェアや検索を考えると、動画だけでなくテキストも発信する必要があります。番組動画のクオリティは高いですが、ネットでシェアしやすく作り直す手数はかかります。テキストのほうが手軽に発信できますが、一方で動画はやはり感情に訴える力がある。報道番組などは動画のショート版をSNSで流し、並行してテキスト記事を配信するなどしています。 でも、テキストに10年あまり取り組み続けてきて感じることですが、テキストコンテンツって映像より大変だなとも感じるんですね。 ――新聞記者からすると、まったく逆の印象です。動画コンテンツに取り組むと、かなりコストがかかってしまうので。 「大変」というのはいくつかあって、まず新聞や雑誌などと比べて放送局には長文の書き手も校正者もかなり少ないということ。 私たちは短いニュース原稿や、映像に合わせる台本を書いてきたので、長文で読ませる文章のトレーニングは不足しており、自己流も目立ちます。 一例ですが、ネットのテキストに体言止めが多いのも特徴で、一段落に3カ所あったこともありました。放送番組はながらで流れていくメディアなので、台本にあえて体言止めを使うことがよくあるのですが、能動的に読むテキストだと、使いすぎは読者のストレスになってしまいます。 そして、放送局なので当たり前ですが、番組など映像に携わる人員のほうが圧倒的に多く、優れた制作者もたくさんいます。制作者や取材者にとっては放送番組のほうが達成感や得られるリターン(反響や課題解決事例など)は大きいのではと思います。 とはいえテキストは必要なので、結局、動画もテキストもどちらかではなく、どちらもする。ただし、最も良い結果を出すために注力するところを考えましょうと、その取り組み方は放送局系のメディアと新聞雑誌系のメディアで異なると思います。 ウェブメディアの業界は「XXはすごい」と、「隣の芝は青い」状態になりがちです。 朝日新聞のウェブメディアwithnewsの前編集長をしていた奥山さんには以前、「NHKはライバルではない」と言われました。つまりライバルはスマホの画面を占める動画サイトやSNS、ゲームなどであって、従来のメディアの業界の中だけで競ってもしかたがないということです。 垣根が低くなっている時代だからこそ、他業種も含めて相互に学び合うことを、さらに進めたほうがよいのではないでしょうか。 【イベント開催します!】 足立義則さんも登壇する、withnewsの10周年イベント「【withnews10周年記念】ウェブメディア激動の10年 令和の温故知新フェス!」を、10月19日にオンラインで開催します。 参加無料。3部構成で、足立さんがnoteプロデューサーの徳力基彦さんと「ウェブメディア総論」について語る第1部は、14時からの開催を予定しています。足立さんたち出演者への質問も受け付けています。https://withnews10th.peatix.com/