評価できる先島諸島の避難計画策定 輸送方法やシェルターなど課題山積 国を挙げ「台湾有事」想定した準備急げ
【ニュース裏表 峯村健司】 政府は「台湾有事」を念頭に、沖縄県の離島から九州・山口の8県に住民を避難させる計画づくりに乗り出した。3日、石垣島や宮古島など先島諸島5市町村の約12万人の住民の避難先として、福岡、佐賀、長崎、大分、熊本、宮崎、鹿児島、山口の各県とする案を発表した。1日約100便の航空機を使うほか、一部は船で鹿児島港に輸送する計画で、最短6日で完了するとしている。 台湾有事を想定した国民保護に向けた具体策に着手したことを、筆者は評価したい。筆者は2022年7月、主任研究員を務めるキヤノングローバル戦略研究所で、台湾有事を想定した研究会を立ち上げた。台湾有事を念頭に自衛隊の装備や法制度をはじめ日本全体が抱える問題点について、防衛、外務、経産、国交など各省庁の一線で活躍する現役の当局者らと約1年間かけて議論を重ねてきた。 「中国人民解放軍が台湾併合を目指して軍事侵攻に乗り出した」というシナリオをもとに、日本や自衛隊が抱える課題の洗い出しを進めた。 その結果、有事の際の物資の輸送や通信インフラなどに欠陥があることが露呈した。中でも深刻なのが、国民保護だ。日本政府や自治体はほとんど準備ができておらず、先島諸島を含む南西諸島の住民の避難にも難航し、最悪の場合は多数の市民が死傷することも分かった。一連のシミュレーションは昨年9月に政策提言としてまとめ、危機管理や防衛を担う複数の日本政府高官に提出した。研究所のホームページにも公開しているので、関心のある方はご覧いただきたい。 こうした政策提言が、これまで政府・自衛隊がほとんど手つかずだった台湾有事の対策を前進させることに、少しでも寄与できたのならば研究者冥利に尽きる。 ただ、これから解決すべき問題は山積している。今回の政府の計画では、主に民間機を使って先島諸島と九州各地をピストン輸送することを想定している。だが、そのためには中国側の台湾併合に向けた兆候をかなり早い段階でつかんで、飛行機の手配や市民への避難の告知をする必要がある。 日本政府の情報収集能力を考えると、かなりハードルが高いと言わざるを得ない。中国軍が電撃作戦をして先島諸島一帯が緊迫した場合、民間機を派遣することは難しくなるだろう。