MYTH & ROID初のツーマン企画『NEXUS vol.1』バイリンガルシンガー・NANOを迎えた東京公演レポート
『オーバーロード』シリーズ、『Re:ゼロから始める異世界生活』、『幼女戦記 』など数々のアニメのテーマソングを手掛け、いずれも神曲と絶賛されてきたMYTH & ROID(ミス アンド ロイド)。プロデューサーでギターのTom-H@ck、ボーカルのKIHOW、作詞家のhotaruによるユニットだ。新たな試みとして、ツーマンライブシリーズ『NEXUS vol.1』を大阪と東京で開催。バイリンガルシンガー・NANOをゲストに迎えた下北沢シャングリラでのステージのレポートをお届けする。 MYTH & ROID『NEXUS vol.1』東京公演のライブ写真(全16枚) 2015年に活動をスタートし、2017年よりKIHOWが加入したMYTH & ROID。もともとライブ活動は海外が中心だったが、2022年に国内での有観客ライブを行い、昨年は初の全国ツアーも。ツーマンライブ主催は 今回が初めてになる。 大阪公演でのゲストは岸田教団&THE明星ロケッツ、そして、東京公演のゲストのNANOは、数多くのアニメソングを歌ってきたのと、ニューヨーク出身で海外ライブが多い点でMYTH & ROIDと共通している。手拍子に乗りフードを被って登場するや、「Evolution」から「magenta」とストレートな歌いっぷりでフロアを高揚させていく。 「ツーマンは夢だったので本当にうれしい。MYTH & ROIDを大好きな気持ちをいったんポイして、ライバルとして正面からぶつかっていきたいと思います!」 そう宣言するとフードを脱ぎ、高速メタルサウンドにさわやかなメロディの「No pain, No game」は拳を振りながら熱く歌った。ピアノバラードの「Hourglass Story」は切ない情感がこもり、胸を震わせる。軽快な「FIGHT SONG」では「ラーララーララララー」と合唱が起こり、会場に一体感が広がった。 1月には初の全米ツアーで、ロスからニューヨークまで回ったNANO。このツアーでオーディエンスと歌うために作ったという新曲を「日本で初めてやります」と告げる。「ウォーオーオーオー」というコーラスと、サビの「Listen to your heart」のフレーズを観客と練習してから、その新曲「Oblivion」へ。 ロックサウンドに乗った激しいシャウトに、練習したばかりのフロアからのコーラスが寄り添って盛り上がる。NANOは「そのパワーを楽しみにしてました」と笑顔を見せた。ラストは1stシングルだった「Now or Never」。ギターのカッティングが唸るイントロから観客たちが一斉にジャンプして、凛々しい熱唱から飛び跳ねる。「まだまだ行けるよね」と最後まで煽ってヒートアップしていった。歓声と拍手に包まれながら、「また会いましょう!」とステージを後に。清々しい熱気が心地良いライブだった。 インターバルの後、幕が再び静かに上がり、背後からガッと照明が当たる。「I am very, very crazy, very」とKIHOWが歌い出したナンバーは「VORACITY」。フロアから「オイ! オイ!」とコールが掛かる中、気だるさとシャープさの抑揚が利いた艶のあるボーカルがゾクゾクさせる。Tom-H@ckのギター を中心に奏でられるタイトなサウンドと相まって、会場を一気にダークな空気で包んだ。 ピアノのイントロから歓声が沸いた「STYX HELIX」では揺らぐような幻想感を漂わせ、「STRAIGHT BET」は四つ打ちビートに乗って疾走する。共にアニメ『Re:ゼロから始める異世界生活』でも馴染みのある曲だ。KIHOWはスタンドマイクの前で歌に感情をほとばしらせながら、どっしりと構え続ける。その隣でTom-H@ckは体を激しく動かしながら、ギターをかき鳴らす。序盤から独特のグラデーションを携えたグルーヴで、息を呑むステージを展開した。 「次はすごく思い入れのある楽曲」と、リリースしたときにNANOがカバーしてくれたエピソードをKIHOWが語って披露したのは「PANTA RHEI」。マイクを手に取り、お立ち台に上がって赤い照明を浴びながら歌う。キャッチーなメロディに流麗な英語詞。スピード感の中で、ファルセットを織り交ぜたサビが刺さった。 立て続けでヘビーなギターのリフから、「新曲です」と KIHOWが一言。そのまま「RESIST-IST」へなだれ込む。3月27日発売のコンセプト・ミニアルバムの2枚目『VERDE』に収録の1曲。攻撃的でラウドなサウンドに、KIHOWがハイトーンでたたみ掛けるのが圧巻の迫力だ。 一転、スペイシーなイントロからのミディアムチューン「ACHE in PULSE」では、低音を響かせて聴き入らせる。KIHOWのボーカリストとしてのキャパシティの広さを改めて実感させるひと幕。手を上げてジャンプする観客を煽る姿には、オーラも漂った。 この曲は昨年放送のアニメ『アークナイツ【冬隠帰路/PERISH IN FROST】』のオープニングテーマでありつつ、コンセプト・ミニアルバムの1枚目『AZUL』にも物語の一編として収録。サウンドとボーカルのトーンがスリリングに移り変わり、MYTH & ROIDならではの非日常感に引き込む。 MCではKIHOWが再びNANOについて、「日本で英語詞を歌うのは難しいと思っていたとき、ネットで「magenta」を聴いてから、ずっと背中を押されてきました」と語る。同じステージでの競演となったこのツーマン、「どんな空気になるんだろう、と始まる前に 想像していたより、みんな素晴らしい! 楽しく歌えてます」と話すと、「RAISON D’ETRE」で後半戦に突入。ソプラノサックスの旋律にKIHOWがクルッとターンして歌い出す、MYTH & ROIDには珍しい明るめなトーンのパーティーチューン。脈打つように止まらないリフレインが陶酔に誘う。 続けて「みんなの声を聞かせて!」と、「We’re shouting」に続く「Oh Yeah、Oh Yeah、Oh Yeah」での合唱を煽る。 「まだ行ける」「もう1回行くよ」と繰り返したあと、ロックナンバーの「TIT FOR TAT」へ。挑発的な目線でワイルドにシャウトするKIHOWに、観客も拳を突き上げて「Oh Yeah、Oh Yeah、Oh Yeah!」と応えていく。熱い盛り上がりにKIHOWは「最高!」と叫んだ。 ノンストップで「Crazy Scary Holy Fantasy」はスローで歪んだ歌い出しから、Tom-H@ckがビートの効いたギターのリフを奏で、ジワジワ攻めていく。毅然としながらリズミカルなボーカル。いつの間にか大きな渦に巻き込まれたように高まっていった。 さらに「JINGO JUNGLE」で「AH RA LA OH LA」と呪文のようなフレーズが繰り返されると、観客は最初からジャンプ。KIHOWはまた腕を上げてさらに煽り、カオスなアップチューンにコール&レスポンスが随所で起こる。攻撃的なボーカルに押せ押せの演奏。明滅するライト。フロアがハイなトランス状態になったようだった。 「曲が終わったあと、皆さんの息切れが聞こえてきて。それが目的のセトリでした(笑)」 KIHOWがそう言うと客席から笑いと拍手が起きる。そして、最後の曲はバラードの「FOREVER LOST」。全編英語詞で静かに歌い上げていく。そこはかとなく漂う悲しみに、物語性を感じさせて…。 アニメ映画『メイドインアビス 深き魂の黎明』のエンディングテーマで、劇場で心に染み入った曲だが、ライブでのアレンジは重みのあるドラミングなどハードめ。両手を広げたKIHOWの歌は祈りのように響き渡った。 1時間弱のステージはあっという間に感じられ、浅い夢の中にいたようでもあった。KIHOWとTom-H@ckが一礼してハケて、ライブ終了のアナウンスがあったあと、予定外にNANOとふたりが再びステージへ。 NANOがKIHOWのMCに応える形で、「私もKIHOWをミュージシャンとしても人間としても尊敬しています。また一緒にライブをやりたいです」と話した。KIHOW、Tom-H@ckと順にハグを交わして大きな拍手を浴び、ツーマンのフィナーレとなった。 振り返るとツーマンでありながら、すべての観客がどちらものファンのようにしか思えなかった。親和性、ナノ友(NANOファン)とMyrror(MYTH & ROIDファン)の温かさ、初見でも惹きつける2組のライブパフォーマンス力が相まってのものだろう。 MYTH & ROIDは4月から、『VERDE』を引っ提げた春ライブツアーを開催する。次はどんな世界を見せてくれるのか、期待は高まるばかりだ。 Text:斉藤貴志 <セットリスト> MYTH & ROID Two-man Live Series「NEXUS vol.1」2024年2月23日 下北沢シャングリラ ●NANO 1.Evolution 2.magenta 3.No pain, No game 4.DREAMCATCHER 5.Hourglass Story 6.LINE OF FIRE 7.FIGHT SONG 8.Oblivion 9.SAVIOR OF SONG 10.Now or Never ●MYTH & ROID 1.VORACITY 2.STYX HELIX 3.STRAIGHT BET 4.PANTA RHEI 5.RESIST-IST 6.ACHE in PULSE 7.RAISON D’ETRE 8.TIT FOR TAT 9.Crazy Scary Holy Fantasy 10.JINGO JUNGLE 11.FOREVER LOST