「知床沖観光船沈没事故」会社等の略式起訴が発覚… 遺族の1人は「認定死亡」を申請
「大変申し訳ない」社長は土下座謝罪も、聴聞では「国にも責任ある」
事故から数日後の4月27日、「知床遊覧船」の桂田精一社長が斜里町内で記者会見を開いた。 「この度はお騒がせして大変申し訳ございませんでした」 会見の冒頭、桂田社長はこう話し、10秒ほど土下座した。 「当社としては被害者の方々を捜索するため、できうる限りの限りを尽くしていく。また今後、被害者の方々のお気持ちを第一に考えて対処するとともに、事故の原因究明に向けての協力を全力で行っていく」 土下座までして謝罪の意思を見せた桂田社長。ところが、その後のとある出来事で火に油を注ぐことになってしまう。 国土交通省北海道運輸局は22年6月14日、「知床遊覧船」側から意見を聞く聴聞を実施。会社の運航許可を取り消すか否かを検討していた。聴聞には「知床遊覧船」側からは誰も出席することなく手続きが進められた。この際、事前提出された陳述書をもとに聴聞が実施されたが、陳述書の中には「責任は監督官庁である国にもある。事故の責任を会社だけに負わせるのはおかしい」旨の不満がつづられていた。 「責任は国にもある」。 この発言について報道された後、ネットでは批判の嵐だった。それはそうなのかもしれないが、会社側が「責任は国にもある」と指摘するのはお門違いも甚だしい。では、あの土下座は何だったのか。社長にはこの問いに答える責任があるだろう。
運航会社等の略式起訴が明らかに、社長は本気で遺族に向き合え
事故から間もなく2年を迎えるなか、事故当時7歳だった息子と42歳の元妻がいまだ行方不明となっている男性が、息子の認定死亡申請をしたことが明らかになった。 2月16日の朝日新聞の記事によると、男性を含む遺族らは「知床遊覧船」と桂田社長を相手取り、損害賠償を求めて今年の春に集団訴訟を起こすという。記事によれば、男性は「昨年11月、知床観光船事件被害者弁護団から訴訟への参加意思を確認され、原告になるには、遺族でなければならないとして決断した」としている。 一方、桂田社長は21年、船員に対して雇用契約書を渡していなかったとして、船員法違反の疑いで略式起訴。知床遊覧船も海上運送法違反で略式起訴されていたことが明らかになっている。桂田社長にはひとごとではなく、遺族、そして起きた事故に対して本気で向き合ってほしい。
小林 英介