SNSで“部族化”した?現代アメリカ 中間選挙前にヘイトクライム続発
アメリカ分断の象徴としての「トライバリズム」
ヘイトクライムは多様性の低い地方都市で発生しやすい印象が強いが、実際には全国レベルでの社会問題であり、大都市におけるヘイトクライムの件数も増加し続けている。カリフォルニア州立大学の「憎悪・過激主義研究センター」が5月に発表した調査報告によると、アメリカの10大都市における憎悪犯罪は4年連続で増加しており、2017年だけを見ても前年度よりも12パーセント以上も増えていた。憎悪犯罪の標的は各都市によって異なり、同報告によると、ニューヨークではユダヤ系が、ロサンゼルスではゲイが、ボストンでは黒人が最も多くヘイトクライムの標的にされている。 大統領に就任する2017年1月よりもはるかに以前から、トランプ大統領はソーシャルメディアや演説の中で、自らにとっての敵と味方をシンプルに分類し、前者に対しては過激な言葉で攻撃し続け、後者には賞賛を送るという手法を徹底して取り続けてきた。ヘイトクライムそのものの歴史は長いが、特定の個人や集団をツイッターや演説などの言葉で攻撃し続けてきたトランプ大統領の手法を、他者への暴力を奨励するメッセージと受け取るアメリカ人が一定数存在するのは、悲しいが事実のようだ。 政治ニュースサイト「ポリティコ」は1日、アメリカ国内で相次ぐ政治暴力事件を受けて、「トランプ大統領がアメリカ社会を分断したと思うか」という質問で行った世論調査の結果を発表した。この質問に対し、民主党支持者の88パーセント、無党派層の55パーセントがイエスと回答している。イエスと回答した共和党支持者は45パーセントで、支持政党間で回答に大きな差がある。政治暴力やヘイトクライムが増加する原因については、支持政党に関係なく「トランプ大統領の言動」を選ぶ人が最も多かった。 分断されるアメリカ社会の象徴として、本来ならば「部族主義」という意味のトライバリズムという言葉が頻繁に使われるようになった。同じ考えを持った「部族」が、考えや風貌などが異なる他の「部族」に暴力を用いることが珍しくなくなった現在のアメリカ社会。異様な雰囲気の中で間もなく中間選挙だが、有権者はどのような判断を下すのだろうか。
------------------------------ ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う