【アジア】【年始特集】最大リスクは今年も消費低迷 2位は国際情勢、為替にも警戒
NNAが実施したアジア太平洋地域に進出する日系企業の駐在員が対象のアンケートで、2025年の景気を占う上でのリスクを尋ねたところ、最も多かったのは前年と同じく「消費の低迷」だった。中国(本土)の景気低迷が続いていることなどがアンケートにも反映された。2位は「国際情勢の動向」で、今月発足する米国のトランプ次期政権の政策への不安などが聞かれた。3位は、前年4位の「為替動向」だった。 「駐在国・地域の今後の景気を占う上でのリスクは何か」については、3つまで選択できる形で聞いた。「消費の低迷」は全体の53.1%に当たる356人が挙げた。比率は23年12月の調査結果と同じとなった。 国・地域別で「消費の低迷」がトップだったのは、中国(73.2%)、タイ(72.8%)、インドネシア(61.7%)の3カ国。いずれの国も、前年より回答比率が上昇した。特にタイは前年の58.0%から14.8ポイントも拡大しており、駐在員の間で消費の先行きへの不安感が大きく高まっていることが見て取れる。 中国の駐在員からは、「世界全体の消費が低迷し、政府の政策の効果は短期的」(機械・機械部品)と中国政府の景気てこ入れ策を不十分と見る意見や、「購買力低下の影響が大きい」(IT・通信)と国内の消費力落ち込みを嘆く声が聞かれた。 前年との大きな違いは、就任前から追加関税など保護主義色を前面に打ち出しているトランプ次期米大統領の政策への不安を挙げる中国駐在員の声が目立ったことだ。「トランプ大統領就任後の対中・メキシコ関税が心配」(電機・電子・半導体)、「トランプ2.0が予想できない対応を取ってくると思うので不安定要素が大きい」(機械・機械部品)、「デフレスパイラルに突入しているところに、米中関係の悪化が追い打ちをかけると考えるから」(電機・電子・半導体)などのコメントが寄せられた。 消費低迷への警戒が一気に強まった感があるタイ。駐在員からは「政府とタイ中央銀行の高金利政策。金融機関の個人向け融資の引き締め」(石油・化学・エネルギー)、「政府の経済政策や対策が遅い」(鉄鋼・金属)といったタイ政府の経済政策やタイ中銀の金融政策への不満が聞かれた。「自動車関連の伸びが期待できない」(石油・化学・エネルギー)のような新車販売の不振に対する悲鳴、「今後の中国の動向および米中関係次第でタイの景気が大きく左右されると思う」(貿易・商社)といったトランプ次期米政権下での米中貿易戦争再燃によるタイ経済への悪影響を警戒する声もみられた。 2期10年にわたったジョコ政権が終わり、プラボウォ政権が24年10月に発足したインドネシアの駐在員の間でも消費低迷への不安は強まっている。「消費低迷が予測される中、付加価値税(VAT)増税やその他経済政策の動向に懸念」(鉄鋼・金属)、「中間層の購買力を上げないとこの国の経済は伸びない」(鉄鋼・金属)のように、プラボウォ政権の経済政策を懸念するコメントが寄せられた。またインドネシアでも「米国の関税政策(トランプ)」といったトランプ次期米政権への警戒が聞かれた。 ■「国際情勢」は5カ国・地域 「国際情勢の動向」の回答比率がトップだった国・地域は香港(72.4%)、シンガポール(69.2%)、台湾(64.0%)、インド(56.7%)、ベトナム(47.2%)と5カ国・地域に上った。 やはり、トランプ政権再登場が最大の懸念材料になっている。「トランプ政権が中国に与える影響を注視する必要があるから」(香港/金融・保険・証券)、「米大統領交代による台湾海峡の地政学的リスクへの影響が不透明」(台湾/小売り・卸売り)、「米大統領交代に伴う関税などの通商政策の懸念」(ベトナム/石油・化学・エネルギー)、「国境問題に端を発する中印関係、および米トランプ政権の動向がインド市場にどう影響を与えていくか注視が必要」(インド/繊維)といった声があった。 ■為替への不安が強いマレーシア リスク要因として3位に浮上した為替動向。回答比率でこれがトップになったのはマレーシア(62.1%)だ。マレーシアの通貨リンギの対米ドル相場は安定せず、23年は安値続きだったのが24年は9月に1米ドル=4.1リンギ台にまで上げた。その後は値下がり傾向に転じ、今月3日には1米ドル=4.5リンギ台の安値に沈んでいる。 マレーシアの駐在員からは「為替の差損発生リスクが高く、決算への影響が大きい」(その他の製造業)、「為替の影響が収益に大きく影響する」(四輪・二輪車・部品)といった声が上がった。 マレーシア以外の国・地域の駐在員からも、「ルピア安進行リスクは常にあり、トランプ政権になり米ドル高圧力が強まりそう」(インドネシア/繊維)、「人民元・米ドルレートの悪化(元安)が予想されるから」(中国/繊維)など、為替動向への懸念が聞かれた。 ■トランプ・リスク、中国で警戒強く 今回のアンケートでは、米国でのトランプ政権再登場が自社の現地事業にどのような影響を及ぼすと考えるかについても尋ねた。全体では、「特に影響はない・現時点では分からない」が59.0%で最多。以下、「マイナスになる」が31.8%、「プラスになる」が7.6%で続いた。 国・地域別でみると、「マイナスになる」との回答が最多だったのはやはり中国。55.6%と唯一の過半だった。トランプ氏が中国製品への追加関税を明言している上、閣僚や高官に対中強硬派を多く指名したことも影響したとみられる。このほか、韓国(47.1%)、ミャンマー(42.9%)、フィリピン(34.1%)で「マイナスになる」の回答比率が高かった。 逆に「プラスになる」の回答比率が最も高かったのはベトナムで26.4%。マレーシア、インドとともに、「プラスになる」の回答比率が「マイナスになる」の比率を上回った。トランプ氏の対中追加関税により、中国からベトナムへの生産シフトがさらに進み、恩恵を受けるとの見方が背景にあるとみられる。