背徳感とスリルに満ちた“窃視ホラー”20選!『裏窓』から『ザ・ウォッチャーズ』まで
のぞく、のぞかれるという原始的構造によって背徳感とスリルが生みだされるのが“窃視ホラー”というジャンルの醍醐味。本稿では、窃視ホラー映画の原点から代表作、近年の話題作まで、“のぞく側”と“のぞかれる側”の2つの視点で紹介していこう。 【写真を見る】のぞく/のぞかれる関係が背徳感とスリルを増幅!“窃視ホラー”の観るべき傑作20本を一気に紹介 ■“のぞく側”には映画史上の名作や、あの人気俳優の新境地が! 『裏窓』(54) 骨折したカメラマンのジェフ(ジェームズ・スチュアート)が、退屈しのぎに他人の家の様子を観察し、殺人事件を目撃。好奇心に促された行動がさらなる好奇心を刺激し、引き下がれなくなるのが人間の弱さでもあり愚かさ。アルフレッド・ヒッチコック監督の卓越した人間描写がスリルを駆り立て、その後のあらゆる窃視映画に絶大な影響をもたらした。 『サイコ』(60) 職場の金を持ち逃げしたマリオン(ジャネット・リー)は、立ち寄ったモーテルでシャワーを浴びる。隣室の壁に開けた穴からその様子を覗き込むのが、映画史にその名を刻むサイコパスのノーマン・ベイツ(アンソニー・パーキンス)だ。主人公かと思われたマリオンがナイフで惨殺され、物語の中心がノーマンに切り替わるという構成も画期的。 『ボディ・ダブル』(84) ブライアン・デ・パルマ監督が敬愛するヒッチコックへのオマージュ全開で描いたエロティックな“裏窓”スリラー。知人宅の留守番を任された売れない俳優ジェイク(クレイグ・ワッソン)は、部屋で裸になる隣人女性の姿を望遠鏡でのぞき見したことから殺人事件に巻き込まれていく。二転三転する展開と閉所恐怖症の要素で、デ・パルマ独自のカラーを確立。 『フライトナイト』(85) うっかり見たものでも、深入りしてしまえば“のぞき”と同じ。高校生のチャーリー(ウィリアム・ラグズデール)は、隣の家に越してきた男たちが美女を狙ったヴァンパイアであると知ってしまう。そこで頼るのは、なぜかテレビの怪奇番組のヴァンパイア・キラー。コメディ要素も満載でカルト的人気を獲得。続編やリメイクも制作された。 『ストーカー』(02) 善人役がよく似合うロビン・ウィリアムズが、タイトルどおりのストーカー役で不気味すぎる孤独な中年男性に。スーパーの写真屋で現像係として働くサイ(ウィリアムズ)は、常連家族の写真を勝手に焼き増し。自分も家族の一員になったつもりで、次第に行動をエスカレートさせていく。あなたの写真も誰かに見られているのかも…。 『ディスタービア』(07) 暴力沙汰を起こし自宅軟禁処分が下された17歳のケール(シャイア・ラブーフ)。自分の部屋から近所をのぞき見するうちに、隣人の不可解な行動に気付いてしまう。『裏窓』の要素に、携帯電話やビデオカメラなどの現代的なアイテムを活用。さらに家の半径30メートルしか移動できない制限もプラスされ、謎解きゲームのようなスリルが。 ■古典ホラーの現代版など、“のぞかれる側”には様々なパターンが 『硝子の塔』(93) 街中を見渡せる高級タワーマンションに越してきたカーリー(シャロン・ストーン)。彼女が恋仲になったオーナーのジーク(ウィリアム・ボールドウィン)には、マンション中に監視カメラを設置して住人の生活を監視する趣味が…。自分たちが“見られる側”だとも知らず、望遠鏡で他人の情事を窃視して大盛り上がりする住人たちの姿はなんたる皮肉。 『グラスハウス』(01) どう見てもプライバシーが保たれない、ガラス張りの豪邸が舞台。保護者の干渉から逃れたいお年頃の女子高生ルビー(リーリー・ソビエスキー)は、事故死した両親の知人夫婦のもとに弟と一緒に息とられるのだが、着替えやプールで泳ぐ姿を養父のテリー(ステラン・スカルスガルド)から見られており…。“同居人が怖い”という窃視ホラーの定番のひとつ。 『ソウ』(04) 老朽化したバスルームに監禁された2人の男。足は鎖で繋がれ、部屋の真ん中には死体がひとつ。殺人鬼ジグソウの仕掛けたゲームに巻き込まれた彼らは、誰かから“見られている”緊張感で疑心暗鬼に陥っていく…。長期シリーズ化した本作や『CUBE』(97)に代表されるソリッド・シチュエーション・スリラーでは、見えない監視者の存在が重要なカギに。 『ザ・ダークプレイス 覗かれる女』(06) 幽霊屋敷ホラー『回転』(61)でも知られるヘンリー・ジェイムズの小説を、エロティック・スリラーとして現代リメイク。家庭教師として人里離れた屋敷にやってきた元教師のアンナ(リーリー・ソビエスキー)。家のなかにいても外にいても、得体の知れない“誰か”に見られている。はっきりと見えるその存在は、襲ってこないからこそ気味が悪い。 『キャビン』(11) 山奥の別荘にやってきた5人の男女の興味本位な行動が、取り返しのつかない恐怖に…というのは大昔からのホラー映画の定番。実はこの別荘はとある組織に監視されており、次々と起こる“あるある”はすべて操作されたものだったというのが本作の肝で、ホラーファン垂涎の要素がぎっしり。メタ・フィクショナルなSF映画としても味わい深い。 『透明人間』(20) 古典ホラーの名作が、ブラムハウス・プロダクションズの手によって現代的なサイコロジカル・ホラーとして生まれ変わった。科学者の元カレが自殺したという知らせに疑念を抱いたセシリア(エリザベス・モス)の周囲で、奇怪な現象が発生。目に見えない存在にいつでもどこでも至近距離で見られていると思ったら、理性が崩壊してしまうのもうなずける。 ■王道スラッシャーから日本の文学作品まで、“窃視ホラー”はまだまだいっぱい ほかにも、全編パソコン画面で進行する画期的な表現で死者から監視される恐怖を描いた『アンフレンデッド』(14)や、海辺の貸別荘で発見した監視カメラをきっかけに泥沼へとはまっていく『サイコハウス 血を誘う家』(20)も“見られる側”を描いた作品。また、M.ナイト・シャマラン監督がメガホンをとった『ヴィジット』(16)は、奇怪な行動をする祖父母の様子をビデオカメラで記録し続ける姉弟を通して“見る側”と“見られる側”の恐怖を両立。 数々の作品に影響を与えた『裏窓』の要素に、“移動する電車から見える”というリアリティとアルコール依存症の主人公の記憶をめぐるスリルを織り交ぜた『ガール・オン・ザ・トレイン』(16)をはじめ、“ソリッド・シチュエーション・スリラー”の人気シリーズで初めて監視する側の存在を明示した『CUBE ZERO』(04)、うっかりのぞき見することから始まる王道スラッシャー映画『クライモリ』(03)など、“見る側”の作品も粒ぞろい。 そして日本映画でも、たびたび映像化されてきた江戸川乱歩の同名作品を、よりエロティックで耽美的な仕上がりに映画化した実相寺昭雄監督の『屋根裏の散歩者』(94)など、窃視ジャンルは世界各地で映画の一つのかたちとして定着している。 ■“3つのルール”を破ると最後…監視者の目的とは? スリラー映画の名手M.ナイト・シャマランの娘イシャナ・ナイト・シャマランが長編監督デビューを飾った『ザ・ウォッチャーズ』(公開中)は、森の奥にたたずむガラス張りの部屋を舞台に、4人の男女が得体の知れない“監視者”の恐怖を味わうという、窃視ホラーに新たな1ページを刻む一本だ。 ダコタ・ファニング演じる孤独を抱えたペットショップ店員のミナが、ある届け物を運ぶ途中で道に迷うところから物語が始まる。深い森のなかへと迷い込み、日没が近付き辺りに不穏な空気が立ち込めるなか、彼女は声に導かれて一軒の建物へと逃げ込んでいく。 そこに待ち受けていたのは、見知らぬ3人の男女。ミナはそこで、「“監視者”に背を向けてはいけない」「決してドアを開けてはいけない」「常に光のなかにいろ」という3つのルールを守りながら、毎夜やってくる“監視者”の恐怖に直面していく。はたして“監視者”の正体と、その目的とは…。父譲りの驚きの展開が次から次へと訪れる新時代の窃視ホラーを、劇場のスクリーン越しに“のぞき見”してほしい。 ■窃視ホラー20作品の「怖いメーター」投票受付中! 「MOVIE WALKER PRESS」のホラーに特化したブランド「PRESS HORROR」では現在、当記事で紹介した“窃視ホラー”20作品が「どのくらい怖いのか?」を可視化する「怖いメーター」の投票企画を実施中だ。 「怖いメーター」は、その映画が「怖かった」「怖くなかった」を回答してもらい、パーセンテージを算出して作品の“怖さ”を可視化する試みだ。例えば全員が「怖かった」と回答すれば必然的に100%となり、10人が鑑賞して5人が「怖かった」と選択した作品ならば5÷10×100で50%となる。 “ホラー映画好き”と一括りにしてもオカルトが好きなのかゾンビが好きなのかと好みが分かれているように、“怖さ”の基準も人それぞれ。ジャンプ・スケア好きもいればあとからじわじわ来る怖さが好きな人もいる。また、ホラー映画に怖さを求める人もいれば、ドラマ性やディテールを愛する人もいるため、この「怖いメーター」の数値が低いからといって駄作というわけではない。それはカレーの辛さと美味しさがイコールではないのと同じようなものだと思えば、わかりやすいだろう。 ホラー映画が好きな人にも、ちょっと苦手という人にも、ホラー映画を選ぶうえで一助になる「怖いメーター」。是非とも投票に参加し、ホラー映画の輪をどんどん広げていこう! 文/久保田 和馬