食用コオロギの養殖と商品開発を展開してきたベンチャー企業グリラス、自己破産を招いた本当の理由
揚げたてを一口噛むとサックリした衣に包まれたクリーミーなかぼちゃの甘みが心地よい。さらに噛み締めると甘さの奥から濃厚な旨味が感じられる。フタホシコオロギの持つ独特の味。換言すればバッタ目に共通するエビ系の旨味に近い。コオロギパウダーが微細で混ぜやすく、カボチャと渾然一体となることで、滑らかで調和のとれた一品となっている ホクホクのさつまいもを一口齧っただけで、バターの濃厚なコクと旨味とコオロギエキスが醸し出す魚介系の風味が渾然一体となって口腔全体に拡散する。まさに旨味の相乗効果といえよう。さつまいもは揚げていないので、濃厚な旨味がストレートに舌に染みわたる。いくらかの塩味が効いていてみたらし味に近い。旨味を凝縮させたエキスを使ったことで、フタホシコオロギの香りや味を惜しげもなく感じさせる秀逸な一品に仕上がっている。 以上のようにとても美味しい料理に仕上がっている。この美味しさをそれこそ「拡散」する手立てはなかったかと悔やまれる。 ■ 昆虫食はこれで終わりではない 自己破産を申請した1か月後の12月「炎上に負けないビジネスモデルを再構築したい」と渡邉氏は語る。当面は飼料分野で再建を考え、次のステップとして2050年までに再び人向けの食品市場に挑戦したいと続ける。こうした発言からは食用コオロギ研究の第一人者としての矜持が感じられる。 同時に「挑戦」を考えるなら、食習慣は極めて保守的であり、普及の決め手は「地球に優しい」からではなく「食べたくなり、食べて美味しい」からに心してほしい。渡邉氏の実家が飲食店で、中学生の頃から店で料理を手伝っていたことを考えれば、商売繁盛には味が決め手なのは身に染みて実感しているはずである。ともあれ当面は研究者の道に立ち返って昆虫食のあるべき未来を先導してほしいと願っているし、渡邉氏にはそれができると確信している。 (編集協力:春燈社 小西眞由美)
内山 昭一