ルフィ事件が警察に与えた「トクリュウ」の衝撃、SNSで離合集散する闇バイト摘発に壁…特殊詐欺から殺人まで
■ 警察は「トクリュウ」対策を相次いで強化 トクリュウ対警察。この戦いは今後、どう展開していくのでしょうか。2023年7月に露木警察庁長官が組織体制の強化を都道府県警察に求めたあと、各警察ではこれを具体化させる動きが続いています。 2024年4月には福岡県警が「組織犯罪捜査課」を新設しました。特殊詐欺対策室などの関連部門を集約したうえで人員を倍増し、100人規模の捜査員を投入。福岡県警の本部長は訓示で「重要なことは組織実態を解明し、犯罪収益が行き着く首謀者や指示役を検挙すること」と犯罪摘発に強い意欲を示しました。北海道警も同時期に「組織犯罪対策1課」を新設。このほかの警察も組織を強化してトクリュウ対策に乗りだしています。 こうした対策の結果、2024年に入ってから宮城県や福島県、大阪府、富山県などで相次いでトクリュウと関係があるとみられる事件が摘発されています。 その摘発もそう簡単ではなさそうです。例えば、先に挙げたルフィ事件では実行役として18~64歳の男女44人が逮捕されていますが、その7割は20代。いずれもSNSに流れてきた「闇バイト」情報に飛びつき、全国各地から事件の現場に集まっていました。 互いに顔も本名も知らない実行役たち。ただ、彼らの中にはSNSで約束されていた報酬をもらえなかったり、指示役に住所や連絡先を把握されて抜け出せなくなったりした人も少なくありません。そうした「互いのつながりの薄さ」が事件の全容把握を遅らせたと言われています。
■ 匿名性の高いSNSが捜査の壁に 匿名性の高い通信アプリの存在も捜査の前に立ちはだかっています。ルフィ事件の指示役らが使っていたのは、メッセージを送信すると消えてしまう「テレグラム」。ウクライナ戦争でウクライナ軍が使ったことなどで知られています。また、米国による大量監視の実態を告発したエドワード・スノーデン氏(ロシアに亡命)が使っていたことで有名になった通信アプリ「シグナル」も、トクリュウが使っていたと言われています。 スマートフォンを押収しても、消えてしまったメッセージの復元は極めて困難とされ、犯罪摘発に不可欠な物証をなかなか入手できないのです。さらに、トクリュウに関与する人物は、海外に住んでいることが少なくありません。 グループの幹部はホテルで優雅に暮らしつつ、日本に指示の電話をかける「かけ子」らは自分の周囲に住まわせ、監視下において自在に使っているわけです。こうした場合、相手国の捜査機関の協力が欠かせませんが、日本との関係の深さなどにより、それぞれ国の対応には温度差があるのも事実です。 警察庁の露木長官は「(ルフィ事件は)これまでの組織犯罪対策のあり方を根本から転換させるほどのインパクトがある。治安上の重大な脅威だ」と強い危機感を示し、トクリュウ対策をけん引しています。その成果が目に見えて現れるのは、いつのことでしょうか。 フロントラインプレス 「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo! ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。
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