『おむすび』佐野勇斗の“自然体の演技”はどのように生まれた? 過去作の役柄と比較
佐野勇斗は“「リアリティ」の欠ける”四ツ木翔也をどう演じたか?
『おむすび』で演じる翔也も、設定だけを見ればリアリティの欠ける人物と言える。しかし、『おむすび』は現代劇で糸島でのロケシーンが多いこともあり、平成のリアルな空気感が魅力の作品。そんな作品の空気になじむように、佐野が見せる翔也の感情表現には大袈裟なところが一つもない。ひょんなことから出会った結への反応、栃木からやってきた母親(酒井若菜)への少しぶっきらぼうな態度、結が語った阪神大震災の記憶に対して流した涙。どのリアクションも大きすぎることはなく自然体で、等身大の男子高校生を感じさせるちょうど良い表現が、翔也というキャラクターに現実味を与えているのだ。これまで感情を大きく表現する漫画のようなキャラクターを演じることが多かった佐野のナチュラルな芝居が楽しめる役柄と言える。 現在放送中の『マイダイアリー』(ABCテレビ・テレビ朝日系)では、数学が得意な“ギフテッド”を持ち、人と関わることを恐れてきた孤独な青年・徳永広海を演じている佐野。『おむすび』で演じる翔也とは真逆のキャラクターだが、こちらでも情緒豊かな作風に合う引き算された芝居を見せている。11月22日に公開予定の映画『六人の嘘つきな大学生』では、嘘と罪に翻弄されるエリート大学生・九賀蒼太を演じる。こちらは、巻き込まれ型のミステリーということもあり、幅のある感情表現が見られそうだ。 11月は、3作品で佐野の芝居を楽しめる稀有な月。佐野の芝居の塩梅が評価されている何よりもの証拠だろう。
古澤椋子