150キロ超の快腕・明石商の中森 小技で対抗する桐生第一 第5日第1試合
2020年甲子園高校野球交流試合(日本高校野球連盟主催、毎日新聞社、朝日新聞社後援、阪神甲子園球場特別協力)が8月10日から、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で行われる。16日の第1試合で対戦する明石商(兵庫)と桐生第一(群馬)の見どころや両チームの戦力、学校紹介、応援メッセージを紹介する。※全国大会出場回数は今春のセンバツを含む。 【夢舞台で明石商と対戦】小技も絡めた攻めが特長の桐生第一 ◇明石商は代名詞のバント攻撃も 桐生第一は早めの継投で勝負 1年生の夏から甲子園を経験している明石商の右腕・中森俊介から、桐生第一が効率よく得点できるかが勝負のポイントになる。 中森はこれまでに甲子園で計8試合に登板して防御率2.53と安定感がある。最速151キロの直球にスライダー、チェンジアップ、フォークなどを巧みに織り交ぜ、打者は球種を絞りづらい。「投手有利のカウントに持っていきたい」とストライク先行の投球スタイルも身につけ、球数が多くなる欠点も克服しつつある。 桐生第一は2019年秋の公式戦で打率4割以上の広瀬智也、中島優月の前に走者を出したい。今泉壮介監督は「3、4点しか取れない」と見ているが、スクイズなど小技も絡めて得点を重ねれば勝機が見えてくる。 明石商では甲子園で計9試合に出場し、打率3割7分1厘の好成績を残した来田涼斗も鍵になる。19年センバツ準々決勝で先頭打者本塁打とサヨナラ本塁打を放つなど大舞台に強い。代名詞のバント攻撃など試合巧者ぶりも健在だ。 桐生第一は先手を取って、左腕・宮下宝と速球派の右腕・蓼原慎仁(たではら・しんじ)を中心に早めの継投で目先を変え、自分たちのペースに持ち込めるか。【藤田健志】 ◇昨年は甲子園春夏4強 全国の強豪に仲間入りした明石商 甲子園に初出場した2016年のセンバツで8強入りし、19年は春夏連続で甲子園4強。一気に全国の強豪校に仲間入りした。 最速151キロの右腕・中森俊介(3年)と甲子園通算3本塁打の主将・来田涼斗(3年)が投打の柱。いずれもプロ注目の逸材だ。中森は「また甲子園で試合ができる。最後の夏は勝って終わりたい」と意気込む。 部員は約100人を数え、選手層が厚い。緩急をつけた投球が持ち味の右腕・中野憂翔(ゆうと、3年)、得点機に強い植本拓哉(3年)ら実力者が並ぶ。19年秋の県大会は準決勝で神戸国際大付に辛勝し、決勝では報徳学園に1―5で完敗。ライバル校のマークが厳しくなる中、近畿大会では大阪桐蔭に3―4で惜敗したものの、8強入りと地力の高さを印象づけた。 新型コロナウイルスの感染拡大により4月上旬から2カ月間、チーム全体での練習はできなかった。狭間善徳監督は「練習不足で体力の低下は否めない」と言うが、中森は「その分、下半身を鍛えて柔軟性が上がった」と語る。6月10日にセンバツ交流試合の開催が決まり、5日後から全体練習を再開。強豪との練習試合を通して実戦感覚を養っている。 交流試合で対戦する桐生第一について、来田は「(主に先発の)宮下宝投手は制球が良い左腕。うちは左打者が多いので左腕はやや苦手」と分析しつつ、「粘り強い野球をして、絶対に勝ちたい」と気合十分だ。 チームは「明商(めいしょう)」の愛称で親しまれ、地元の期待は高い。狭間監督は「必死に戦う姿を見せることが、今まで支えてくれた人たちへの恩返しになる」と選手を鼓舞し、チームの士気は上がっている。【中田敦子】 ◇明石商・来田涼斗主将の話 (桐生第一は)投打ともに良い選手がそろっており、とても強いチーム。チーム全体で体が大きくなり、打撃力が上がった。3年間の集大成として、最後まであきらめずに戦いたい。 ◇卒業生に車いすテニスの上地結衣選手ら 1953年開校の兵庫県明石市立高校。商業科にトレーナーや体育教員などを目指すスポーツ科学コースがある。野球部も53年創部。センバツは2016年に初出場した。19年は甲子園で春夏とも4強。卒業生に松本航投手(西武)、リオデジャネイロ・パラリンピック車いすテニス女子銅メダリストの上地結衣選手ら。 ◇「一球入魂!」神戸電機産業社長・勝山秀明さん 明石商を応援するようになって10年以上がたちました。私立の強豪が居並ぶ中、明石など兵庫県出身の選手が多い公立校が活躍する姿を見ると、地元企業人としてうれしいです。甲子園に出場した時は毎試合応援に出かけ、私の肌は真っ黒になっていました。 センバツ中止は残念でしたが、1試合だけでも選手たちが甲子園で野球ができることになってうれしかったです。せっかく甲子園で試合ができるのですから、選手には悔いの残らないような戦いをしてほしいです。 無観客試合のため、この目で選手たちの活躍を見られないのは残念ですが、テレビの前で全力で応援します。はつらつとしたプレーを見せてほしいです。一球入魂! ◇監督と選手がアプリで「対話」する桐生第一 2019年秋の県大会で13年ぶりに優勝。続く地元開催の関東大会でも桐光学園(神奈川)を破り4強入りし、地力をつけている。センバツ交流試合に向け、主将の広瀬智也(3年)は「とにかく甲子園の土を踏みたかった。最後は仲間全員で勝ちにいきたい」と意欲を燃やす。 バントや盗塁などを絡めて確実に点を積み重ねる攻撃がチームの特長だ。19年秋の公式戦では8試合で72得点を挙げた。秋季関東大会では特に小技が光った。山梨学院(山梨)との準決勝では、5得点のうち3点をスクイズで奪った。長打力のある選手もおり、広瀬や桐光学園戦で満塁本塁打を放った中島優月(3年)らに期待が懸かる。 投手陣は、左の宮下宝(3年)と右の蓼原慎仁(3年)の二枚看板。宮下は制球力が抜群で、カーブやスライダーなど変化球を織り交ぜて打たせて取る投球が持ち味だ。「甲子園の最初の1球は思いっきりストレートを投げ込みたい」と意気込む。蓼原は、最速144キロの直球を軸に打者を抑える本格派。冬のトレーニングを経てプロが注目する投手に成長した。 18年夏の群馬大会後、甲子園に春夏計14回導いた福田治男氏の後を受け、今泉壮介監督が就任した。今泉監督は選手とのコミュニケーションを重視し、アスリート用アプリ「Atleta(アトレータ)」を導入。食事の内容やけがの具合などの申告、練習での気づき、悩みごとなど、総勢90人を超える部員との対話をアプリで円滑に行っている。 夢の舞台を控え、広瀬は「祖父母に小さい頃から『甲子園に連れていくからね』と言っていた。感謝の気持ちを込めて全力でプレーしたい」と活躍を誓った。【川地隆史】 ◇桐生第一・広瀬智也主将の話 (明石商は)昨年の夏の甲子園にも出ており、レベルが高い。モチベーションはまだまだ上がる。最高の舞台で最強のチームとできることは幸せ。感謝の気持ちを忘れずに戦いたい。 ◇1999年夏に全国制覇、OBに巨人・藤岡貴裕投手 1901年創立。前身は桐生裁縫専門女学館。校名が桐丘だった68年に男子部が設置され、89年から現校名になった。野球部は85年創部。夏の甲子園では99年に群馬県勢初優勝を果たした。センバツは初出場した91年と2014年の8強が最高。OBに藤岡貴裕投手(巨人)ら。群馬県桐生市。 ◇「甲子園はすべてを包み込む」2006年度野球部主将・矢島賢人さん 今回の交流試合出場は、消えかけていた甲子園がさまざまな人たちの思いのお陰で形になったのだと思います。1試合ですが、その舞台を精いっぱい味わってきてください。 甲子園は本当に特別な場所です。誤解を恐れずに言いますが、失敗も後悔もすべて包み込んでくれる場所です。私は夏に主将として出場しましたが、2試合で7打数ノーヒットでした。でも、なぜか今も記憶に残っているのは達成感だけです。苦しかった練習を乗り越え、仲間とともに出場を果たした。自分は報われたと、心から思ったのです。 消えたかと思われた甲子園が、再び皆さんの前に開かれた。積み重ねてきたものを、皆さんの高校野球をやりきってください。