インフレの時こそ、顧客と信頼を築く好機である
■複雑な背景を持つインフレの進行 顧客との間に信頼を築くことは難しい。今日における富の格差は、この数年にわたるインフレの進行と相まって、信頼の構築をいっそう困難にしている。カタリストが実施した最近の研究によれば、インフレの責任は企業の強欲にあると考える消費者の割合が2022年以降、8%増えている。 しかし、この現象はそれほど単純なものではない。インフレ傾向は、コロナ禍でサプライチェーンが混乱し消費者需要が変化する中で、企業の既存の力が価格設定に影響を及ぼしたことによる、より広範な経済的変化も反映しているからだ。 ■今日の消費者の信頼に影響を及ぼしている要因 コロナ禍後のインフレ期に、消費者の心理は変化した。この変化の根底には、業界や経済の状況など制御不可能な要因と、製品カテゴリー、ブランドのレピュテーション、従来の顧客体験や期待といった直接的な要因がある。 コミュニケーション、透明性、信頼性は非常に重要だ。金融情勢に目まぐるしい変化が起き、サプライチェーンが政治的緊張の影響を受ける状況下では、ブランドはたとえネガティブな変化であっても──むしろネガティブな変化であればこそ──積極的にコミュニケーションを図ることで信頼を構築できる。 消費者の信頼は、これまでに築いてきたレピュテーションとも密接に関連している。質の高いサービスを常に提供してきたブランドは、インフレ期でも健闘する可能性が高い。 米国の年間インフレ率は前年から微減の3.1%にまで落ち着いたとはいえ、インフレが個人消費とサプライチェーンコストに影響を与え続ける中、企業は戦略を適応させ、透明性の高いコミュニケーションを維持することで懸念に対処しなくてはならない。 一方で、消費者は価値を重視しなくなったわけではない。インフレに伴い価格感応度も高まっている。物価が上がれば消費者の購買力は低下する。結果的に、人々はより吟味して購入に臨み、比較購買などの慣行に頼るようになる。可能な限り損のないように購入しようと、さまざまな店舗やオンラインプラットフォームで同じ製品や似た製品の価格を慎重に比較するわけだ。加えて、人々は支出を管理するために、より厳密に予算を組むようになっている。 こうした変化は、イノベーションの強化、メリットの追加、品質の向上を通じて価値を高めるブランドにとって好機となる。これらを実践するブランドは、より公正な価格で提供していると認識されることで恩恵を受け、信頼を獲得しやすい。 ■なぜブランドはインフレを認めるべきなのか このインフレの中でブランドに対する期待は高まっているが、だからといって完璧である必要はない。製品の品質を維持し、積極的なコミュニケーションを取りながら、透明性を持って消費者とともにインフレの課題に対処することは可能だ。 インフレによる顧客への影響を無視すれば、信頼を損なう可能性が高い。しかし、ブランドがインフレによる川下への影響を認めれば、顧客の懸念に向き合い、彼らの価格認識が正当であることを確認して不安に対処し、再購入に対して安心感を与えることができる。 インフレを認めれば、透明性と正直さを示すことになる。インフレが事業にどう影響しているのかを正直に表明することで、弱さを隠さずに見せることになる。それが偽りではないと認識されれば、その透明性によって信頼が促進され、顧客ロイヤルティが醸成され始める。 一方、インフレの現実に率直に向き合うことを怠ったり拒否したりするブランドは、顧客を完全に失うリスクがある。たとえば便乗値上げは、不安定な時期に搾取されているという感覚を消費者に与える。遅延や値上げの理由について透明性を避けたり、嘘をついたりするブランドは、失った信頼を取り戻すのに苦労することになる。消費者はひとたびブランド側の無関心や努力不足を認識すると、そうした感情を返してくるのだ。 ■インフレ期に顧客との信頼を築く方法 ブランドが顧客との信頼を維持するだけでなく、むしろ強める形でインフレによる変化に対処することは、可能かつ必須である。ただし、インフレによる値上げと遅延について、どう説明すればよいかを知っておくことが重要だ。あまりコストがかからず、2024年の収益性の向上にもつながる5つの戦略を以下に挙げよう。 ■1. 値上げの必要がある場合、その理由を顧客に伝える 誠実なコミュニケーションによって、ブランドのレピュテーションを保つことができる。価格調整の理由について明確かつ率直なメッセージを用いて顧客に伝え、インフレが事業に及ぼす影響について説明しよう。場合によっては、インフレをもたらしている広範な経済要因について顧客に知識を提供し、状況と価格調整の必要性に関する理解を助けてもよい。 透明性が非常に高い企業の一つに、SNS管理ツールを提供するバッファーがある。同社は社員の給与、売上高、株式報酬の計算式やその他の詳細を自社のウェブサイトで公開している。 インフレを認め、顧客との信頼関係の構築を優先することは、収益を伸ばすための強固な基盤となる。なぜなら顧客ロイヤルティを育むことで、リピート購入と好ましいクチコミが促進され、自社のブランドが差別化され、競争優位が拡大し、顧客の生涯価値が高まり、ロイヤル顧客と潜在顧客の両方から見た全体的なブランド認知度が向上するからだ。 これらは研究の結果に基づいており、PwCのデータによれば、事業部門の幹部の91%は信頼構築が収益性につながると考えている。