「ご隠居、おっ珍しい、それ写真じゃあねえですかい。それ見て何思案しているんです？」 「おお、熊さんかい。オシントだよ。オシント」 「お新香？聞いてくださいよ、ご隠居。今朝、かかあが朝飯のおかずに沢庵一枚しか出さねえんで叱り飛ばしてやりましたぜ」

「アハハ、お新香ではなくて、オシントだ。Open Source Intelligenceの頭文字をつなげてOSINT=オシントだ」 「そいつは、歯応えが良くて、うまいんですかい」 「まあ、熊さんに説明するだけ時間の無駄だなぁ・・・・」

と、落語の枕のような書き出しになってしまいました。

ボクもこのOSINT（Open Source Intelligence）を知ったのは、ついこの間。熊さんに偉そうなことは言えない。1980年代から行われている情報収集、分析、決定で、極秘ではなく、誰でもが入手できるあらゆる情報によって行われている諜報活動の一種。諜報活動と聞くと世界各地で起こっている紛争に対する国防というイメージ。古い諜報活動の手法と思いきや、今でもロシアやウクライナの戦力分析に一枚の写真から火力重機の状態、戦果、兵士の士気まで多くを分析できるという。

前てよ。 このオシンコ、いやオシント。 良くやっているぞ。

先日も、モータースポーツカメラマンのA氏の写真展に足を運び、カメラマンの仲間たちと彼の写真を鑑賞しながら、年代、場所、方角、コーナーの名称、時間帯、そのレースの展開、その時のチーム状況、ドライバーの力量、チームメイトとの相性、エンジニアの才能、その時代のマシンの性能、ハードウエアのエポックメイキングな開発などが、どんどん出てくる出てくる。また、お初に見る写真は、A氏の解説で、新たなる情報としてインプットさせていただく。これこそ、愛すべき、大好きなモータースポーツのオシントではないか。

と、そう言えば、ボクがこの仕事に足を踏み入れて、最初にもらったアルバイトの仕事が、今はなきSK堂のAT誌の写真整理だった。建物の奥の方にある、ちょっとカビ臭い棚ばかりが並んでいる暗い部屋の片隅に置いてある小さな机で一人。溜まりに溜まった主にモノクロームのネガフィルムとベタ焼、ほんの僅かなカラーのポジフィルムを本誌と照らし合わせて、年代別、レース別に箱に入れて整理した。子供の頃、ちょっとだけ蓄えたモータースポーツの知識を最大限に駆使し、本誌との情報で総合した。単純に見えて、ただ右から左へ整理するだけの作業ではない。重要な事業に従事しているのだと自画自賛しながら充実し、楽しくて、他人が見たら何をそんなに意気込んでいるのだと笑われたでしょうね。その時、一枚一枚の写真から自ずと平和なオシントをしていた。