ルヴァン杯初Vのセレッソ大阪を結束させた午前6時半開始の早朝練習
今シーズンから指揮を執るクラブOBの尹監督は、午前6時半開始の早朝練習を皮切りに、3部練習を課した。2011シーズンから率いたサガン鳥栖をJ1へ昇格させ、定着に導いたスパルタ指導をC大阪でも実践すると周囲には映った。 しかし、実情は異なった。早朝練習はランニングがメインで、時間も30分程度。3部練習といっても、トータルでは4時間程度だったと玉田稔代表取締役社長は振り返る。 「別にしんどい練習をしたわけではなくて、規律を重んじてみんなでやる、というところが一番のポイントだったと思います。サッカーは個人で戦うのではなく組織として、チームとして戦わなければならない、ということを意識していたのかと」 杉本とMF山口蛍がハリルジャパンの常連となり、清武やキャプテンのFW柿谷曜一朗も日本代表経験をもつ。個々の才能が際立つ一方で、昨シーズンまで2年間、J2を戦っている。 原因を心の甘さに求めた指揮官は、早寝早起きのサイクルを集団で徹底させることで一体感をより高めさせた。能力があるがゆえに、意思を統一させれば堅守も生まれる。焦りも手伝ったのか、時間の経過とともに川崎はミスを連発した。 そして、初戴冠にはもうひとつの“見えざる力”も働いている。グループステージからガンバ大阪の準決勝までの計12試合で、尹監督はリーグ戦とはまったく異なるメンバー構成で臨んできた。 たとえばG大阪との準決勝第1戦に先発した11人で、決勝戦をピッチの上で迎えたのはDF木本恭生だけ。過密日程を考慮した上でのターンオーバーだったと明かす尹監督は、ルヴァンカップでの決勝進出がチーム全体に相乗効果を与えたと指摘する。 「リーグ戦の結果がよくなかったとき、ルヴァンカップ組の必死に走る姿がすごくいい影響を与えた。ただ、タイトルを取るためには何かを犠牲にしなければならなかった」 熟慮した末に、決勝ではレギュラー組を先発で送り出した。決勝がルヴァンカップ初出場となった杉本は、MVPを獲得した試合後に偽らざる思いを明かす。 「ベンチにも一度も入っていなかったので、しっかり責任を果たして頑張らなあかん、負けたらこれまで戦ってくれたメンバーに顔を見せられへんと」 チームを決勝へ導いたメンバーは笑顔で勝利を託し、ベンチやスタンドで祈り続けた。選ばれた選手たちは、感謝の思いをすべてのプレーに込めた。さらに高まった一体感は後半終了間際に仕掛けたカウンターから生まれた、MFソウザのダメ押し点となって結実した。 疲労困憊の状態ながら、ゴール前へ懸命にボールを運んだ清武が全員の思いを代弁する。 「歴史を変えるのは僕たちしかいない、という気持ちで戦った。そして、本当に変わるかどうかは、これからの自分たち次第だと思っている」 3位につけるリーグ戦では優勝の可能性が消滅したが、天皇杯ではベスト4に残っている。来年元日の決勝の舞台は同じ埼玉スタジアム。個々の才能に泥臭さを融合させ、ハードワークも厭わない集団へ変貌を遂げたC大阪の新たな合言葉は決まった。「もう一度、この表彰台から同じ景色を見よう」と。 (文責・藤江直人/スポーツライター)