医療脱毛「アリシアクリニック」破産前から出ていた危険サイン…脱毛サロンの倒産が繰り返される背景事情
■「前受金ビジネス」と日常生活での違和感 個人客を巻き込む大規模な倒産が発生すると、「調査会社は蓄積したデータを使って事前に警鐘を鳴らさないのか」、「後出しで『知っていました』は卑怯だ」といった意見がSNSなどで寄せられる。しかし、無制限な信用情報の発信は、取引相手の離反や事業価値の毀損につながり、事業再生の芽を摘みかねない。 ただ、TSRは寄せられた意見も鑑みて、脱毛サロンをはじめとする、必要資金を借入金でなく前受金で充当している「前受金ビジネス」の動向に関するレポートを作成し、2024年2月13日にホームページで公表した。TSRが保有する決算データを分析すると、約2割の企業が前受金(前受収益含む)を貸借対照表に計上していた。また、全体の0.4%の企業は、総負債に占める前受金の割合(負債前受金比率)が50%以上に達していた。
業種によってビジネスモデルはさまざまで、この比率が高いことが一概に悪いわけではない。ただ、レポートでは「前受金ビジネスは、顧客の増加が続く限り、前受金を元手に積極的に事業拡大を進めることができる。だが、ひとたび顧客が減少に転じると、これまでの投資があだとなり、一気に手元資金がひっ迫する事態になりかねない」とチェックポイントを指摘した。 過去、アリシアクリニックは、テレビCMで積極的に広告宣伝していたが、最近はすっかり見かけなくなった。一般個人向けのサービスで、同業との競合が激しいなか、広告宣伝の減少は新規顧客の獲得に大きく影響する。つまり、「顧客減少」と「手元資金の逼迫」の可能性を告げるサインがあった。こうした日常での違和感も、与信上の重要な情報だ。
今回破産した2つのクリニックの負債前受金比率はどうだったのか。じぶんクリニックの決算書は入手できていないが、アリシアクリニックは2023年4月期の決算書が手元にある。それから算出すると84.3%に達する。前述のとおり、比率が50%を超える企業は0.4%しかない。その中でも突出した企業に位置付けられる財務内容だった。 ■脱毛サロンの倒産が繰り返される背景事情 繰り返される脱毛サロンの倒産では、泣き寝入りするしかない多くの被害者を見てきた。倒産や事業再生をウォッチする立場ではあるが、多数の被害者を生んでいるにもかかわらず、大半の案件が破産となっていることに憤りを覚える。1~11月のエステティック業の倒産99件のうち、破産は94件(構成比94.9%)と圧倒的に多い。