レッドソックス上原はなぜ打たれないのか?
上原浩治と藤川球児の共通点
これなら、相手打者は「ボールが浮き上がってくる」とも感じられるはずである。実は、上原の球筋について一番具体的に教えてくれたのは、キャスバー・ウェルズ(フィリーズ)という選手だった。春のオープン戦で彼は、藤川と対戦している。その印象を聞くと、「ウエハラに似ている」と話したのだ。 その共通点を問えば、「ボールが伸びてくる感じが」と答えている。 彼との取材でのやり取りをしたことをまとめると……「二人(上原と藤川)の球は沈まない。結果どうなるかと言えば、ボールの下を振りやすくなる。打者の中には、平均的な投手が投げる真っすぐの軌道がイメージとして染み付いているから、彼らの球は浮き上がるように見える。そうした球が有効なのは、真っすぐ系なのに微妙な変化をするカッターやツーシームといったムービンファストボールが、打者にとって厄介なのと同じこと」……なのだそうだ。 ある意味、変化球か?と聞けば、「そうともいえる」と頬を緩めた。上原や藤川のようにきれいなファストボールを投げる投手はアメリカには少ない。よって、逆に彼らの球は特殊な動きに映るようだ。 ちなみに、相手打者が振って、空振りする確率を示すデータもあって、その数値は9月21日現在、18.4%で、50イニング以上投げた投手の中で上原はリーグトップだ。 おそらく空振りのほとんどは、上原が持つスプリットという落ちる球だろう。だが、真っすぐが伸びているから、なお、その落差が大きくなり有効なのである。この143キロのファストボールで空振りを取るシーンは少なくはない。ウェルズの「ボールの下を振りやすくなる」という言葉が証明している。 なお、空振り確率の2位は、あの100マイルの超速球を投げるアロルディス・チャップマン(レッズ)で16.6%。対象的な二人だが、空振りをとるのに必要なのは、必ずしもチャプマンのような速い球ではない、ということが分かる。打者から次々に空振りを奪う、143キロの魔球。ただ、疲れなどからバーティカルムーブメントの値が平均的なものになれば、それはリスクの高い球にもなり得る。 どこまで重力に逆らえるか。上原の生命線はそこにある。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)