CSで豹変した阪神・和田采配
何が和田監督の采配を変えたのか? 私はCSを前にして、甲子園のベンチ裏のロッカーで仰々しく行われた坂井オーナーから和田監督への続投要請に大きな意味があったと思う。広島は野村監督が辞意を表明して敗れた。阪神も2008年に13ゲーム差を巨人に逆転されV逸した岡田監督が辞意を表明してCSでは中日に敗れた。やはり去り行く指揮官というものは求心力を失う。選手の深層心理から「この監督は来年いない人だから」の思いは消えない。 だが、阪神は逆に「来年もこの人ですよ」と内外に公表した。燻っていた監督人事の靄が晴れたことで、選手の深層心理とともに、何より監督自身の気持ちの持ちように影響を与えたのではないだろうか。次期監督として名前が挙がっていた人物と和田監督との最大の違いは決断力の差である。シーズン中、遠征先では、まったく外出はせず、負けがこむと関係者の食事ルームにも降りてこず部屋にこもってルームサービスを注文することも少なくなかったと聞く。ビジネスマンとして通用するほど、社会性が高く、勉強家で理知的な指揮官は、阪神監督としての行動や言動に必要以上に気を使う。だが、監督には、ときには狂気や常識外の思想も必要である。それが勝負師や決断力という部分につながるのかもしれないが、頭の回る和田監督のことだから、続投要請を機に自分に何が足りないかを考え、吹っ切れたのではないか。それこそが和田監督が場内インタビューで明らかにした「チャレンジャー精神で暴れる」という開き直りのメンタルだったのだと思う。 続投要請にいたる過程はスムーズとはいえなかったが、和田采配を変えた裏には、タイミングよく坂井オーナーを出馬させた球団フロントの隠れたファインプレーがあったのかもしれない。 1985年以来の“日本一”へ。その命運は、変貌した和田采配が握っている。 (文責・本郷陽一/論スポ、アスリートジャーナル)