「飲めるハンバーグ」で5人入院の食中毒事故 思い出される5人死亡「ユッケ食中毒事故」社長の土下座謝罪
「飲めるハンバーグ」が人気を博していた、千葉県船橋市の飲食店「将泰庵DINERシャポー」船橋店で発生した、食中毒事故が物議を醸している。 【写真あり】「焼肉酒家えびす」の“土下座謝罪” 9月6日、船橋市保健所は、8月26~28日に同店で調理、提供された「飲めるハンバーグ御膳」などを食べた4グループ14人のうち、男性2人、女性5人が下痢や腹痛などの症状を訴え、計5人が入院中と発表した。 発症者の便から「腸管出血性大腸菌O157」が検出されるなどしたため、ハンバーグなどが原因の食中毒と断定。同店を9月6日から3日間の営業停止処分にした。 「飲めるハンバーグ」とはどんなものなのか。グルメライターがこう話す。 「将泰庵さんの『飲めるハンバーグ』は、A5ランクの雌牛を使用し、粗挽きではなく、もっとも細かい目で2度挽きすることによって、ふわふわの食感を生み出しています。箸を入れるとたっぷりの肉汁が飛び出します。歯が要らないほど柔らかいため、『飲める』という表現になったようです。 鉄板に乗せられて提供されるのですが、提供したてのハンバーグをナイフなどで開くと、かなり赤い部分が残っている“半熟”状態になっています。お店は『3分待ってください』と伝えているそうで、それを守らなかった客も悪いということなんでしょうが……。 ただ、将泰庵やその系列のお店では、ユッケや肉寿司といった牛肉の“生食”を非常に強く押し出していました。それだけに、これまで利用してきた客などからは、ハンバーグの生焼けが原因と見られる食中毒が、かなり問題視されています」 集団食中毒事件といえば、13年前に同様に牛肉で大きな被害を生んだ事件があった。 2011年4月21日から26日にかけて、富山県、福井県、神奈川県の店舗で、ユッケなどを食べた客181人が「腸管出血性大腸菌O111」による食中毒症状を起こし、5人が死亡、24人が重症となった「焼肉酒家えびす」による事件だ。 「本日、4人めの死亡者が確認されたと聞きました。お詫び申し上げます。本当に申し訳ございませんでした!」 2011年5月5日、「焼肉酒家えびす」を経営していた、株式会社フーズ・フォーラス社長(当時)のK氏は、本社前に集まった報道陣の前で慟哭しながら土下座謝罪をした。 その数日前の会見では、眼光鋭く、「申し訳ございませんっ」と興奮気味に謝罪しつつも「使えないものを使ったんだったら、人殺しですよね」「法律で生食用というか、普通の精肉をユッケとして出しているのをすべて禁止すればいい」と、開き直りとも思える発言をしていたが、この日はさすがに憔悴した表情で“土下座謝罪”をしたのだった。 今回の「将泰庵」は、現会長の木原徹氏が、2010年に会社を設立。もともと結婚相手の実家が焼肉店だったが、店舗拡大について意見が合わず、離婚してまで独立したという。その後、「将泰庵」グループの飲食店は、1号店がある千葉県から東京都にも広がり、13店舗まで拡大している。 その心意気は「焼肉酒家えびす」も似た状況だった。K氏は“脱サラ”して1997年に富山県内で1号店を出店し、1998年に運営会社を設立。 わずか13年で20店舗に拡大した“スゴ腕社長”で、事件当時「社員からは『とにかくバイタリティとカリスマ性がある』という声が聞かれます」と地元記者は話していた。 K氏の自宅近所の住民は「姿を見せるのは、早朝に自宅を出るときくらいの仕事人間。お子さんの面倒もほとんど奥さんが見ていたようですね」と話すなどの仕事ぶりが功を奏したのか、店舗数が拡大するとともに、メディア露出の機会も増えていった。 「将泰庵」の「飲めるハンバーグ」は、その奇抜さを売りに、テレビ番組に取り上げる機会も多く、事件発覚直前の9月7日には『朝だ!生です旅サラダ』(ABCテレビ制作、テレビ朝日系)でも取り上げられていた。 「焼肉酒家えびす」も、事件直前に“人気番組”に取り上げられていた。 当時、あるテレビ関係者が「番組のどこが深イイ話なのか、わからなかったヨイショ的な内容」と語っていたのは、2022年までレギュラー放送されていた『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)。2011年4月18日放送で「焼肉酒家えびす」が紹介されていた。 「激安スペシャル」と題された企画で、神奈川県内の店舗の密着映像が流れたが、スタジオ出演者が「安いだけと違って」と、店舗や会社の姿勢を賞賛するコメントを発していた。 その放送の3日後以降に利用した客から、食中毒事故が発生していたことになる。 フーズ・フォーラス社は、事件により全店で営業を中止し、営業を再開することなく2011年7月8日に廃業。食中毒事件による遺族9人から訴えを起こされ、2018年3月に同社には約1億6900万円の支払いを命じる判決が下った。同社は2024年1月に破産手続きが終結している。 社会部記者はこう話す。 「当時、この事件は社会問題化し、消費者庁と厚生労働省により、2011年10月1日から生食用牛肉の処理に関する規格基準が改定されるまでに至りました。当時は多くの国民のなかで『もうユッケなどは食べられない』という意識が非常に強かったと思います。 もちろん、基準を満たした食肉であれば、生食も可能ではありますが、時が経ち、厳格されたことの記憶や生食への危険性が薄れ始めているのでしょうか」 株式会社将泰庵は、9月7日に公式サイトに「食中毒事故に関するお詫びとお知らせ」を掲載。 同社内での衛生管理と洗浄殺菌作業の徹底、従業員の健康チェックと教育体制の強化が記されていた。そして、食中毒事故が起きた当該店舗は、9月9日から営業再開している。 飲食店として、最低限の“食の安全”は管理してほしいものだ。