連載『lit!』第113回:Kanaria、柊マグネタイト、猫舘 こたつ…シーンの火を絶やさぬよう鳴り続けたボカロ曲5選
VOCALOIDという音楽ジャンルを語る上でなくてはならない存在だった、動画サービス・ニコニコ動画。 【画像あり】ボカロ曲の流行の変遷と「ボカロっぽさ」についての考察:柊キライ、Kanariaら2020年の活躍 だが、6月初旬に発生したKADOKAWAグループ全体に影響を及ぼしたサイバー攻撃によって、当然その傘下で運営されていたサイトも一時停止を余儀なくされた。それに伴い非常に大勢のボカロP、そしてボカロリスナーたちが多大なる被害を被ったことは周知の通りだろう。 大勢のバックスタッフの献身によって、サイバー攻撃から丸2カ月後の8月初旬、ニコニコ動画は無事復活を遂げる。しかしその間、シーン全体が沈黙に包まれていたかと言えば、答えは否だ。 近年ではニコニコ動画のみならず、YouTubeでも盛んにボカロ曲の投稿やクリエイター活動が行われている。その傾向自体が進んできたことも、此度の出来事の中でそれでもシーンの動き自体が繋がった要因でもあるだろう。 今回の連載では、前代未聞のニコニコ動画不在の2カ月、そんな未曽有の事態に負けることなく、シーンの火を絶やさないように鳴り続けた楽曲をピックアップしていく。 ■Kanaria「チャンピオン」 ニコニコ動画が停止したこの2カ月の間でも、シーンには様々なイベントや動きがあった。そのうちのひとつが、昨年より継続して動いている通称『ポケミク』こと『ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE 18 Types/Songs』だ。 本企画では当初、ポケットモンスターのタイプ数にちなんだ18人のボカロPによるポケモンフィーチャリングな楽曲が公開されていたが、その後も様々な催しに併せて追加曲を発表。今回全曲を集めたアルバムの発売に伴い、20曲目となるKanariaが手掛けた本曲が投稿された。楽曲には『ポケットモンスター』シリーズの中でも根強い人気を誇るチャンピオン・シロナとのバトルを想起させるサンプリングが随所に点在。元来Kanariaの魅力であるダークなテイストとの相性も抜群だ。 ■柊マグネタイト「アンテナ39」 8月初旬に開催予定だったシーンの一大祭典『The VOCALOID Collection 2024 Summer』はニコニコ動画へのサイバー攻撃の影響で延期となったものの、同じく8月から開催予定の『初音ミク「マジカルミライ 2024」』については着々と準備が進みつつある。こちらもシーンには欠かせない、歌姫・初音ミク生誕を祝う毎年恒例の一大イベントだ。 『マジカルミライ』は毎年著名なボカロPからのテーマソング提供があり、それもまた見どころのひとつとなる。今年の楽曲担当はダンサブルなビートを売りとする楽曲で、2020年前後のシーン復興にも一役買ったボカロP・柊マグネタイト。今年のイベントテーマ「ファンファントリップ」に準じた、彼の十八番である高揚感ある四つ打ちエレクトロサウンドで祝祭に華を添える。 ■マサラダ「㋰責任集合体」 2023年投稿の処女作「ライアーダンサー」がシーンで一躍脚光を浴びた後も、「ちっちゃな私」「ウルトラトレーラー」といったミニマルながらも作り込まれた曲を次々と発表する期待のルーキー・マサラダ。4作目の本曲も投稿自体は5月上旬だが、ニコニコ動画休止中も怒涛の勢いでYouTubeの再生数を伸ばし、結果公開から3カ月弱で700万回再生という新人ボカロPとしては異例の躍進を見せている。 彼の曲は一般リスナー以上に、同業であるボカロPほかクリエイター陣からの支持が厚い所も特筆すべき点だろう。音楽のみならずイラスト、映像制作まで自身で行う徹底したセルフクリエイトの姿勢もまた、同様に制作に勤しむ人々から期待を集める要因のひとつかもしれない。