れんが造りの公使館、外交の「原点」伝える 韓国政府、ワシントンで展示施設に転用
かつて朝鮮王朝が米首都ワシントンに公使館を置いたれんが造りの建物が、その外交史を振り返る場として活用されている。日本に外交権を奪われ手放した後、長い歳月を経て韓国政府が買い入れ2024年で12年。修復され2018年に展示施設として開館後、新型コロナウイルス禍で長期休館を余儀なくされたが、観覧者数は累計2万人を超え米韓、米朝関係の「原点」を伝える。(共同通信=長尾一史) 「当時ワシントンにあった各国公館で原形を保っているのはここだけです」。管理する韓国政府傘下の「国外所在文化遺産財団」米国事務所の姜林汕(カン・イムサン)所長が2024年7月、館内を案内してくれた。1階には応接室や食堂のほか、皇帝高宗(コジョン)の写真を前に礼拝した「正堂」を再現。2階には公使らの執務室などを復元している。 朝鮮王朝は1882年に米国と修好通商条約を結び公使を派遣。有力者の邸宅を買い入れ公使館とした。1897年に大韓帝国建国を宣布したが、日露戦争に勝った日本に1905年の第2次日韓協約で外交権を奪われ、後に建物は払い下げられた。
戦後は現地の労働組合事務所などとして使われ、公使館跡としては歴史の中に眠っていたが、2003年から在米韓国人らが返還運動を展開。2012年に韓国政府が350万ドル(約5億円)で買い入れ、過去の写真や文献に基づき復元した。 管理する国外所在文化遺産財団は、韓国外に散在する朝鮮半島由来の文化財の返還を模索しつつ、各地での「活用」も事業の柱に据える。公使館は、その取り組みを象徴する成功例ともされている。 開館当時の文在寅(ムン・ジェイン)大統領をはじめ、韓国要人が訪米時に歴史を胸に刻む場にもなっている。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領も検察幹部だった当時、芳名録に「先祖の労苦を思うと胸が詰まる」と記している。 韓国側が管理する「米韓外交の原点」である一方、元は南北分断前の外交を物語る建物だ。姜所長は「いつか南北、米朝関係が改善した時、北朝鮮側の人々も訪れ、変化した対米関係を振り返る日が来てほしい」と話した。