母親の虐待、売春強要も…河合優実が魅せる「眼差し、仕草」実在女性に寄り添う優しさ とても痛い映画「あんのこと」
【エンタなう】 喉元を過ぎれば熱さを忘れる。2020年の出来事を思い出したくない人がほとんどだろう。東京の空をブルーインパルスが舞った頃、1人の若い女性が自ら命を断った。コロナ禍で実際起きた出来事を報じた1本の記事に衝撃を受けた入江悠監督が自ら脚本を手がけた「あんのこと」は、とても痛い映画だ。 【写真】映画「あんのこと」の舞台あいさつに出席した入江悠監督、稲垣吾郎、河合優実、佐藤二朗 20歳の杏は、シャブ中でウリの常習犯。ホステスの母と、足の不自由な祖母と団地で暮らしている。母親の虐待が続き、小学4年で不登校に。12歳から売春を強要されていた。絶望の淵をベテラン刑事に救われ、この刑事と懇意の週刊誌記者のあっせんで介護の仕事に就く。やがて、シェルターハウスでの生活を決意。鬼母から逃れ、やっと世界の扉が開いた矢先に、コロナ禍で職を失い、刑事の別の顔が発覚する…。 杏を演じる河合優実が細い希望の糸をたぐり寄せ、ようやく居場所を見つけたときの透徹した眼差し、風を感じる仕草に、実在した女性に寄り添う優しさを感じた。ドラマ「不適切にもほどがある」で演じたネアカで親の愛に恵まれた不良娘の対極にある底辺のリアルだ。この河合の振り幅はすごい。 人懐っこさとだらしなさが共存する刑事役の佐藤二朗、人情とジャーナリズムの間で苦悩する記者役の稲垣吾郎は、だれかを断罪しても胸は晴れないコロナ禍の空気を体現している。一番の悪者は、私たちの隣にいてもおかしくない杏への「無関心」という魔物なのだ。公開中。(中本裕己)