“ミスキャスト”。日本代表が苦戦した原因は?4得点に隠れた不安材料【西部の目/アジアカップ2023】
日本代表は現地時間14日、AFCアジアカップカタール2023・グループステージ第1節でベトナム代表と対戦し、4-2で勝利した。一時は逆転される苦しい展開になったが、果たしてなぜ日本代表は手こずったのだろうか。4得点という結果にぼやけてしまいそうになるが、日本代表の攻撃陣は課題を残している。(文:西部謙司) 【動画】サッカー日本代表、ベトナム代表戦のスーパーゴールがこれだ!
●前線の縦関係が機能しなかった理由 2000年レバノン大会で日本代表をアジア王者に導いたフィリップ・トルシエ監督が率いるベトナム代表は、24年前と変わらない「フラット3」を基調としたコンパクトなプレースタイル。日本代表は統制のとれた守備に少し手こずりながら、決定力にものをいわせて4-2の勝利を収めた。 引いた相手をどう攻略するかは、今大会で日本代表が直面する課題である。昨年10月のチュニジア代表戦、続く11月のW杯予選のミャンマー代表戦、シリア代表戦、さらに元日のタイ代表との試合ではいずれも複数得点を決めていて、すでにメドがついているはずの課題なのだが、ベトナム代表戦ではあまり良い出来ではなかった。 相手がディフェンスラインを増員したとしても、崩し方そのものは変わらない。ラインの前にボールをつなぎ、相手が動いたら背後をつく。ラインの背後に大きなスペースはないとはいえ、DFが何人いようが横幅をカバーしているだけなので、ラインの手前にボールを運んでしまえば裏をとりやすいのは同じなのだ。 その点でキーマンになるのはトップの細谷真大とトップ下の南野拓実だったが、このコンビが機能していなかった。 ●ミスキャストと南野拓実の問題 細谷はスピードが武器で裏抜けを特徴とするストライカーだが、そもそもこの試合で相手ディフェンスの裏のスペースは限られている。伊東純也、中村敬斗、南野の2列目が「間受け」を狙うのでバイタルエリアは渋滞、細谷がそこで収める形にはならない。細谷へのラストパスも限定的。カウンターからのチャンスはあったが、それ以外は存在感が薄く、この試合に関してはミスキャストだった。 2得点の大活躍、素早い守備でも躍動した南野も、「間受け」という点ではあまり仕事をしていない。前回大会でもセカンドストライカーとして活躍したが、引いた相手を崩すためのポイントになる「間受け」はできておらず、その点はトップの大迫勇也が肩代わりしていた。ASモナコ移籍後、バイタルエリアからのラストパスに新境地を拓いたはずだが、この試合ではアシストについては不発だった。 19歳のグエン・ディン・バックは数少ない脅威になっていた。技術が高く、足腰の強さもあり、遠藤航を股抜きでかわす太々しさもあった。自らの攻め込みで得たCKから、ニアで見事に合わせるヘディングで16分に同点ゴール。さらに菅原由勢のファウルを誘ってFKをとり、ベトナム代表はそこから逆転の2点目をゲット。持ち前の機敏さ、ボールタッチの上手さを発揮し、さらにトルシエ監督仕込みの機動力のある守備でベトナム代表はペースをつかみかけていた。 ところが、日本代表は南野、中村のゴールであっさりと逆転に成功。そこまで攻め込みが上手くいっているわけでもないのに、チャンスを効率的に決めてしまう決定力の高さは現在のチームの最大の長所なのかもしれない。かつては「決定力不足」と言われ続け、ブラジル代表などに理不尽なシュートを食らって彼我の差を痛感させられていたものだが、日本代表はいつのまにかそれを対戦相手に行使するチームになっているのだ。 ●引かれたときの解決策は… 85分には上田綺世がダメ押しの4点目。交代出場の堂安律、久保建英のコンビでペナルティーエリア内まで運んでからの強烈な一発。引かれたときの解決策として、久保と堂安のコンビがあることを印象づけた。 日本代表の基盤となっているのは冨安健洋、板倉滉、遠藤航、守田英正の4人である。この4人が揃ったときと、そうでないときのチーム力に差があるのが現状だ。今回は冨安が欠場。プレッシングの迫力はやはり落ちたが、それでもアジアカップを戦うには十分だろう。 不安材料はGK鈴木彩艶。シントトロイデンでレギュラーポジションを確保するや、日本代表でもファーストチョイスになった逸材。能力は圧倒的なのだが経験不足のためか、ときおりミスも目立つ。FKから決められた2点目は、ヘディングシュートにセーブしながらもボールを弾く距離、角度ともに十分でなく、こぼれ球を押し込まれた。もし、1-2のまま敗戦となっていたら、あのワンプレーでポジションを失っていたかもしれない。今回は攻撃陣の破壊力に助けられたともいえる。 ほとんどのポジションの人選、序列まで決まっている感もある中、GKは不透明だった。しかし、首尾よくアジアカップに優勝すれば正GK鈴木が確立される大会となるのではないか。 (文:西部謙司)
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