米国は金利高止まりでインフレ収まらず…増加中の「仕事はあるが資産は少ない」層が直面する苦境
「大規模な雇用調整」は時間の問題?
金融環境は既に悪化しつつある。 FRBは5月6日、第1四半期に企業向けの融資基準を厳しくした銀行の割合が3四半期ぶりに拡大したことを明らかにした。 米主要地銀の第1四半期の純利益の合計は前年に比べて62%減少しており(5月7日付日本経済新聞)、業績が悪化した地銀などが融資に慎重な姿勢に傾いている。 そのとばっちりを受けているのが製造業だ。 米サプライマネジメント協会(ISM)が5月1日に発表した4月の米製造業景況感指数(PMI)は前月比1.1ポイント減の49.2だった。好不況の分かれ目である50を再び下回った。仕入れ価格の上昇に加えて、高金利の長期化と金融機関の貸し渋りが、業況の悪化につながったと言われている。 この傾向が特に顕著なのが雇用の4分の3を占める中小企業だ。名目GDPを大きく上回る借り入れコストに苦しめられており、「大規模な雇用調整は時間の問題だ」と懸念されている。
貧困層よりも厳しい生活を強いられる層
今後の景気の先行きが危ぶまれる中、多くの米国人は既に苦境に陥っている。 米国の非営利団体が発案した造語「ALICE」は「就職しているが、資産は限られ、住宅費や医療費などを支払う余力が不足している状態」(Asset Limited, Income Constrained, Employed)を指す。4月23日付BUSINESS INSIDERによれば、米国の貧困率が下落する一方、過去10年でALICEの比率は増加して30%に迫っているという。政府の援助を受けられない彼らは、貧困層よりも厳しい生活を強いられているのかもしれない。 このような状況下で米国経済が景気後退入りしたら、バイデン政権への評価がさらに下がるのは火を見るより明らかだ。半年後に迫った大統領選でバイデン氏が再選するためにはインフレ退治が不可欠だが、その妙案を見つけることはできるのだろうか。 藤和彦 経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。 デイリー新潮編集部
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