ナリタブライアン「高松宮杯」出走は、なぜ武豊が騎乗した? 三冠馬達成30年目の真実…降ろされた主戦騎手・南井克巳は「僕が負けたのが原因です」
『史上最強の三冠馬ナリタブライアン』#2
“シャドーロールの怪物”ナリタブライアンの突然の出走に競馬ファンが驚いた「高松宮杯」の舞台裏をサンケイスポーツの競馬担当だった鈴木学氏が主戦騎手・南井克巳に聞いた。現役時代から現在に至るまで周囲への感謝の気持ちを忘れない南井克巳だが、ナリタブライアンの高松宮杯出走だけは愛馬への同情を抑えきれないようだ。 【画像】「僕が原因」と語るナリタブライアン主戦騎手だった南井克巳氏 『史上最強の三冠馬ナリタブライアン』(ワニブックス)より、一部抜粋・再構成してお届けする。
当時、謎を残したナリタブライアンの高松宮杯レース模様
賛否両論が渦巻いた高松宮杯の当日、僕は競馬場にいなかった。その日は休みをもらって高校時代の友人の結婚式に出席していた。レースは披露宴に出席している時に行われたので、テレビの生中継すら見ることができなかった。 あとで4着に敗れたと知った時の感想は「やっぱり」で驚きはなかった。事実、サンケイスポーツで発表した予想で、僕はナリタブライアンを無印にしていたからだ。 その後、録画していたビデオでレースを見た。 スリーコースが逃げ、フラワーパークが2番手につけてレースは進む。ナリタブライアンは抜群のスタートを切ったもののスプリンターの猛者たちのダッシュ力に敵わず後方から4番手の位置で競馬をすることになった。ただ、流れには乗っているようで、武豊は無理に押して前につけようとはしていない。 だが、勝負どころでも前との差はまったく縮まらない。ペースが上がってからの武豊の手は動きっぱなしとなった。3、4コーナーの中間点で先頭に立ったフラワーパークは馬なり。鞍上にいる田原成貴の手はまったく動いていない。直線に入ってようやく追い出されたフラワーパークは、力強い脚取りで後続を突き放していく。 一方、ナリタブライアンは? 外を回したら絶対に届かないと判断したのか、内を通って直線を向くと、そのまま馬群の間を割って脚を伸ばしてきた。だが、時すでに遅し。フラワーパークの脚いろはそれ以上だった。先頭との差はまるで詰まることなく、ナリタブライアンは4着でゴール板を駆け抜けた。 ナリタブライアンの前半600メートルの通過タイムは34秒0。スプリント戦で求められる前半34秒5を切るダッシュ力は見せたが、ラスト600メートルのタイムは、2着のビコーペガサスと同じ34秒2。長距離戦で繰り出してきた33秒台の瞬発力を見せることはできなかった。息の入らないスプリント戦だけに後半の瞬発力につながらなかったといえる。 勝ったフラワーパークは、4コーナーで先頭に立ちながらメンバー最速の末脚(34秒1)を使った。前半で自身の持つ卓越したスピードを生かして先行し、後半もスピードを持続させる。まさに短距離のスペシャリストの勝ち方の見本を見せつけた。これではさすがのナリタブライアンも勝てない。