子どもたちに笑顔で指導する高橋さん（撮影・杉浦　友樹）

　【あの人に逢鷹（あいたか）　ホークス戦士のその後】ソフトバンクの15年ドラフト1位で、8日に27歳になった高橋純平さんは昨年限りで現役引退し、球団に残って野球振興部の一員として再出発している。ホークスベースボールスクールのコーチ、野球教室などを通して子供たちに伝えたいことと、現役時代を振り返った。 　「OK」「ナイス、いいよ」――。野球振興部の一員となった高橋さんは現役時代と変わらないさわやかな笑顔で子供たちと触れ合う。教える側になったが野球に携わること、子供の成長の早さや、うまくなろうとチャレンジする姿を間近で見られることにやりがいを感じている。 　「“天職”は言い過ぎかもしれないですけど、凄くいい仕事をさせてもらってます」 　県岐阜商から15年ドラフトで3球団競合の末、ソフトバンクに入団した。19年には中継ぎとして45試合で3勝2敗17ホールド、防御率2・65の成績を挙げたのが最大の輝き。この年は6月29日の日本ハム戦でプロ初勝利を飾り、7月23日ロッテ戦では本紙評論家の松田宣浩氏と本拠地で一緒にお立ち台に上がった。「2019年の中でもこの2つは特別だった」と印象深いという。 　昨年限りで構想外を伝えられ現役引退を決断。「全く違う世界で勝負したい気持ちも少しあった」。それでも野球に携わりたい思いが勝った。球団には「子供に野球を教えたいです」と伝えて野球振興部に配属された。同じ職場の先輩には通算64勝の新垣渚さん、通算90勝の帆足和幸さんがいる。2人からは「どの仕事をするにも挑戦しないとダメだよ」と助言され糧にしている。 　野球教室の前には集まった子供たちに「“恥ずかしい”を捨てましょう」と語りかけた。自身はドラフト1位という看板に悩まされた。周囲からの目を気にして「なかなか自分の殻を破って先輩やコーチに聞くことが難しかった」と反省する。ターニングポイントは18年オフに参加したプエルトリコのウインターリーグ。年齢が先輩で実績も上の外国の選手が高橋さんに「その変化球どうやって投げるの？」と聞いてくる姿に感銘を受けた。野球観と価値観が変わった。「上達するコツとして照れを捨てるのが大事。なかなか難しいけど、うまくなるための最短だと思う」と苦い経験からの学びを伝えている。 　自身は小学校高学年の頃に参加した野球教室に中日の森野、和田が来てくれた。ティー打撃やピッチングを教わった。和田とは1打席勝負で対戦して打たれたことは今でも鮮明だという。「野球がうまい人を間近で見られてうれしかった。自分もそんな存在になりたい」。27歳の挑戦は始まったばかりだ。　（杉浦　友樹） 　《九州・山口に39校展開》ソフトバンクOBを中心とした元プロやアカデミー公認コーチが指導する「ホークスベースボールスクール」は九州・山口に39校を展開している。6月3日には「七隈校」が新規開校するにあたって5月20、27日に福岡大ソフトボール場で体験会を実施する。また、同25日には福岡大学文系センター棟西側グラウンドで野球教室を開催。詳しくは公式サイトへ。 　○…高橋さんと同じ15年ドラフトでは3位の谷川原、6位の川瀬が奮闘中だ。同じ97年生まれでは入団時期こそ違うが大関、杉山らがいる。「活躍していることがうれしいし、素直に応援したい」。ファームで中継ぎ右腕として切磋琢磨（せっさたくま）した中村亮も同学年で「今度試合を見に行くよとは言っている」と明かした。 　◇高橋　純平（たかはし・じゅんぺい）1997年（平9）5月8日生まれ、岐阜県出身の27歳。県岐阜商では3年春の選抜に出場し、8強入りに貢献。15年ドラフト1位でソフトバンクに入団。19年は45試合に登板して日本一に貢献。右投げ右打ち。 　【取材後記】ユニークな手法に驚かされた。5月5日に福岡市の王貞治ミュージアムで行われた野球体験イベントでは、高橋さんが野球講座を開いた。ユニホーム姿で子供たちの前に立った“高橋先生”はなぞなぞを出した。恥ずかしながら記者が分からなかった問題をここで紹介したい。 　“やさいチーム”と“くだものチーム”が対戦。くだものチームが1点を追う9回2アウトランナーなしで、「みかんがホームランを打ってサヨナラ勝ちした理由は？」というもの。答えはランナーに“なし”がいたからだ。 　簡単に答える子供たちに感嘆した。「子供は大人がホークスのユニホームを着て野球を教えると身構える。距離を縮めてからだと吸収も早いと思う」と話す表情は優しさにあふれていた。　（杉浦　友樹）