分娩の休止相次ぐ 地域医療支えるJA病院 医師の”偏在”が加速
働き方改革が拍車 人材確保難しく
地域医療を守るJA病院などで分娩(ぶんべん)の休止が相次いでいる。2024年度からの医師の働き方改革などが拍車をかけ、産科医の不足や偏在が加速化する。医師や地元住民らからは「政府は子育て支援を重視するが、地域で安心して出産できる基盤が崩れている」との意見が出ている。 高松市のJA香川厚生連屋島総合病院は、今年12月末に分娩を休止する。婦人科や分娩後のケアなどは続けるものの、4月以降は新たな分娩の予約受け付けをやめた。 同病院の分娩件数は年間およそ300。これまで大学などから医師が手伝いに来てくれることはあったが、河西邦浩産婦人科部長は9年、ほぼ1人で分娩を担ってきた。河西部長は「いつなんどき呼ばれるか分からず、予定は極力入れなかった。見た目以上に拘束され、1人ではもう限界だった」と明かす。 病院はもう1人の産婦人科医の確保に手を尽くしてきたが、チームで分娩対応できなければ産科医は派遣されにくい。さらに24年度から医師の残業が規制される働き方改革が始まり、大学からの外勤に制限がかかることから苦渋の決断をした。 県内で分娩できる施設は来年から16になる。10年間で7施設が分娩をやめた。同病院には高松市内だけでなく、県東部からも出産を受け入れてきた。分娩休止は県内の広い地域に影響が及ぶ。農家の女性(87)は「33歳の孫は安心して妊娠もできないと言っている。政府は少子化対策や地方創生というなら、地域で出産が難しい事態を認識してほしい」と訴える。 斉藤誠院長は「1人の医師の献身による綱渡りが続いていた。地域への影響の大きさを考えると再開しなければならない。産科医確保へ働きかけを続けたい」とする。ただ、病院や派遣する大学の努力だけでは難しいという。斉藤院長は「少子化対策と医療確保は車の両輪。農村で安心して産める環境について、国全体で考えてほしい」と切望する。
取り扱い院 25年で半減 なり手も不足
北秋田地域で唯一分娩ができる医療機関だったJA秋田厚生連北秋田市民病院は、24年度で分娩対応を終了する。妊婦検診や分娩以外の産婦人科診療は続ける予定だ。 JA三重厚生連鈴鹿中央総合病院も16年から分娩を休止した。再開のめどは立っていないという。 全国から医師を探して分娩を再開させたJA病院もあるが、1人体制であるなど盤石ではないケースもある。 JA病院だけでなく、地方の多くの病院で分娩休止が相次ぐ。厚生労働省によると、分娩を取り扱う医療機関は年々減少し、分娩取り扱い病院・診療所数は20年、全国で2070。1996年は3991あり、25年間で半分になった。出生数の減少以上に施設が減少している。 昼夜関係なく対応が必要で、訴訟リスクもある産科医のなり手は他の診療科に比べて少ない。産科医の高齢化や医師の働き方改革などもあり、今後も分娩の休止を余儀なくされる病院が増える恐れがある。さらに出生数の減少が病院経営を圧迫する問題もある。 全国厚生連病院長会の軽部彰宏氏(JA秋田厚生連由利組合総合病院長)は「農村で産科維持ができなくなり、都市の施設への集約化が加速している。地方で出産ができないこの事態は大問題だ」と主張し、社会全体で対応を考える必要性を強調する。(尾原浩子)
日本農業新聞