<甲子園交流試合・2020センバツ32校>智弁学園、すがすがしく 中京大中京に惜敗 /奈良
2020年甲子園高校野球交流試合第3日の12日、県代表の智弁学園は中京大中京(愛知)と対戦した。同点に追いつき、エースの西村王雅(おうが)投手(2年)が粘投したが、交流試合初の延長戦・タイブレークの末、3-4と惜しくも敗れた。憧れの舞台での試合を終えた選手らは、すがすがしい表情で球場を去った。【小宅洋介、萱原健一】 【真夏の熱闘】交流試合の写真特集はこちら 智弁学園 0003000000=3 3000000001=4 中京大中京 (延長十回、十回からタイブレーク) 「勝つ気持ちも忘れてはいけないが、笑顔も忘れるな!」。試合前の円陣で小坂将商監督は選手たちにげきを飛ばした。1試合限りの交流試合。定めたテーマは「楽しむこと」だ。 初回、西村投手の制球が乱れ、一気に3点を奪われたが、四回表に前川右京選手(2年)と今崎圭秦選手(3年)が連続死球で出塁すると、続く山下陽輔選手(2年)が中前打を放ち、満塁の好機を作った。押し出し四球で1点を返し、なお満塁で打席に立ったのは西村投手だった。 狙い球を直球に定めてバットを鋭く振り抜くと、打球は一、二塁間を抜け右翼前へ。2人の走者が生還し、同点に追いついた。スタンドで見守った西村投手の父基治さんは「何とかしてくれると思っていた」と喜んだ。 以降、試合は息詰まる投手戦に。中京大中京エースの高橋宏斗投手(3年)が繰り出す150キロ超の速球に、智弁学園は三塁まで走者を進めることができない。一方、復調した西村投手も一歩も引かず、延長戦・タイブレークにもつれこんだ。 無得点に抑えられた後の十回裏、バント処理を誤り、満塁のピンチに。捕手の田上拓磨選手(3年)は西村投手の元へ駆け寄り「落ち着いて。自分らしいピッチングをしよう」と声を掛けた。だが、試合は思わぬ形で結末を迎える。続く打者が打ち上げたボールがセカンドの錦織拓馬選手(3年)の元へ。打ち取ったかに見えたがグラブからボールがこぼれ落ち、サヨナラの走者が本塁に還りゲームセット。落ち込む錦織選手にチームメートが掛けた言葉は「胸を張れ」。試合後、錦織選手は「最高の仲間と野球ができた」と振り返った。 2019年の明治神宮大会を制した全国屈指の強豪をあと一歩のところまで追い込んだ選手たちの熱闘に、スタンドの保護者らから惜しみない拍手が送られた。白石陸主将(3年)の父健一さんは「いい試合を見せてくれた。選手たちにはお疲れ様と言いたい」とたたえた。 ……………………………………………………………………………………………………… ■熱球 ◇人の助け、あったからこそ 白石陸主将 智弁学園(3年) 「自分がまず塁に出る」。そう思って臨んだ一回表の初打席。150キロの速球を逆方向に打ち返し、がむしゃらに一塁まで走り抜けると、記録は内野安打に。チームを勢いづける1本だった。 2019年夏の甲子園2回戦の八戸学院光星(青森)戦に2年生ながら外野手として出場した。だが結果は無安打。「3年生の最後の舞台なのに申し訳ない」。そう感じていたからこそ、1年ぶりの甲子園でチームに貢献できたことがうれしかった。 「背中で引っ張れる主将になれ」。昨年の甲子園の後、前主将の坂下翔馬さんから言われた言葉だ。周りの期待に応えるため、必死に主将としての仕事に励んだが、すべての責任が自分に返ってくることをつらいと感じた時期もある。そんな主将の苦悩を察してか、チームメートたちは幾度も陰でフォローしてくれた。「いろいろな人の助けがあったからこそやってこられた」 十回表、最後となった打席は中直に倒れたが「悔しがっている場合ではない」と、チームを鼓舞し続けた。勝利は逃したが、悔いはない。「日本一を目指してほしい」と後輩にエールを送り、夢の舞台に別れを告げた。【小宅洋介】