佐藤雅彦の名言「…未来があるのである。」【本と名言365】
これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。NHK Eテレの「ピタゴラスイッチ」の監修、「だんご3兄弟」の歌や「ポリンキー」「スコーン」などの広告で知られるクリエイター佐藤雅彦が暮らしの中で考えていること。 【フォトギャラリーを見る】 未来に投げかけるいたずらには、未来があるのである。 NHK・Eテレの「ピタゴラスイッチ」の監修、東京藝術大学映像研究科の名誉教授、「だんご3兄弟」の歌や「ポリンキー」「スコーン」などの広告で知られるクリエイター佐藤雅彦。本人の名前や存在は知らずとも、「アルゴリズムたいそう」や「テトペッテンソン」、歌のフレーズやキャッチコピーに聞き覚えがある方は少なくないだろう。 「ピタゴラスイッチ」は、20年以上前、当時佐藤が教授を務めていた慶応大学環境情報学部の研究室のメンバーとNHKのチームとで、「知識」ではなく「考え方」を伝える、新しい幼児教育番組を作り上げた。 この本は雑誌『暮らしの手帖』に長年連載されているエッセイを単行本化したものだ。佐藤は、幼児向けに「考え方」を伝えるのと同じように、大人に向けて「考えの整頓」を試みたものだ。 日常という混沌の渦の中に見え隠れしている不可解さ、特に〝新種の不可解さ〟を取り出し、書くという事で整頓してみようと思いました。 という前書きからこの本は始まる。あくまで視点は日常、暮らしの中にある。きっかけは非常に小さな「?」だ。その小さな点を端緒に、少し霧がかった靄の中を読者と紆余曲折し、気づいたら考えの本質に触れている。そんなエッセイである。ビジネス本のように、○○をすれば成功するといったようなうまい話は一切出てこないが、トントントン、と考えを整頓するだけで世界の見え方がガラリと変わることがわかるだろう。 未来に投げかけるいたずらには、未来があるのである。 一見すると何のことやらわからない言葉だが、これは「広辞苑第三版 2157頁」というエッセイに書かれていたものだ。タイトルを聞くと、余計に何のことかわからないかもしれない。 エッセイは、広辞苑2157頁の「へそくり」の言葉が載っているページに、1万円を自らが挟み、へそくりしていたことに数十年経った後に見つけてびっくりした、というエピソードから始まる。過去の自分が仕込んだ1万円に未来の自分が驚き、ちょっと嬉しい気持ちになる。そうした「企て」がプロジェクトであり、プロジェクトとは「未来に投げかける」という意味があると述べる。そして、佐藤が考案した「幸せないたずら」プロジェクトが紹介される。具体的なエピソードは本書で確認していただきたいが、佐藤はそれを「幸せの時限爆弾」でもあるという。 このエピソードだけでなく、27編のエッセイに書かれている出来事は、誰にでも起こりうる些細なこと。でもその出来事に遭遇した時に、その小さな感覚の違いに気づき、一旦立ち止まって考えることの大切さ、楽しさにこの本は気づかせてくれる。
さとう・まさひこ
1954年静岡県生まれ。表現研究者。東京大学教育学部卒業。株式会社電通を経て、1999年、慶應義塾大学環境情報学部教授。2006年より、東京藝術大学大学院映像研究科教授(2021年より名誉教授)。代表作に、プレイステーションソフト『I.Q』、NHK教育テレビ『2355』、『0655』、『ピタゴラスイッチ』など多数。
photo_Yuki Sonoyama text_Keiko Kamijo illustration_Yoshifumi ...