中国製BEVへの警戒感を強めるEUとアメリカ! 中国メーカーが日本を本格的に狙う可能性はあるのか?
世界中で増える中国製BEV
報道によると、EU(欧州連合)の欧州委員会は2024年8月20日に中国製BEV(バッテリー電気自動車)の関税について、8月発表より一部に最終的な追加関税率の引き下げを発表した。 【画像】2025年の日本導入が噂されている話題の中国車 最大税率37.6%としていた上海汽車は36.3%に、BYDオート(比亜迪汽車)は17.4%から17%、ジーリー(吉利汽車)は19.9%から19.3%となった。なお、中国で生産されたアメリカ・テスラのBEVについては、中国政府からの補助金が少ないとして20.8%から9%に大幅引き下げとなっている。これ以外の中国メーカーは、逆に20.8%から21.3%へ今回引き上げられている。 なお、すでに中国製BEVについては、現行関税率10%にさらに暫定関税が課されている。今回の関税率を確定させるためには、10月末までにEU加盟国の承認を得る必要があるとも報じられている。 中国政府も黙って受け入れるつもりはないようで、WTO(世界貿易機関)への提訴など、その対抗措置を講じている。 中国政府同様に、半ば「ヨーロッパ復権」や、「日本車潰し」とまでいわれるほどBEVの普及に前のめりとなっていたEU。しかし、フタを開けてみると、欧州市場に怒涛の勢いで割安感の高い中国製BEVがEU市場に流れ始めることを招いてしまった。そこで慌てて追加関税を課すことにしたといったように見える。
日本の市場は世界と比較しても特殊だ
中国メーカーは、すでに中国以外に生産拠点を設けており、今後はタイの工場で生産したモデルを欧州向けに出荷してEUの措置をかわそうとするのではないかとの報道もある。また、「BEVがダメならPHEV(プラグインハイブリッド車)で欧州へ」との動きもあるようだが、EUもすでにそこへの警戒を強めているようである。 世界的にBEVの販売は停滞ムードが目立っているものの、中国メーカー製BEVの存在感が増す傾向は依然として続いている。欧州よりは前のめりではないアメリカであっても、すでに中国製BEV包囲網を構築しようとしている。こうなってくると、世界第4位になったといえども世界的には巨大な自動車市場をもつ日本へ、中国メーカーも注目してくるのではないかと考えてしまう。 ただ、欧州や東南アジアなどではBEVの導入に政府が積極的である点は日本とは大きく環境が異なっているといえよう。HEV(ハイブリッド車)が突出して普及しているという点でもかなり特殊な市場ともいえる日本では、BEVの普及はあくまで民間レベルに委ねられているといっていいだろう。その点では諸外国に比べると健全な市場であるとも表現することができる。 中国メーカーもBEV一辺倒ではなく、PHEVやHEV、そしてICE(内燃機関)車もラインアップするところが多い。BEV専門に見えるBYDオートであってもPHEVをラインアップしている。BEV市場がまだまだこれからとなっている日本では、中国メーカーがPHEVやHEVで勝負を仕かけてくることも想定できるが、冷え切った政府レベルの関係や、両国の国民感情などを考えると慎重な市場開拓が必要になってくるだろう。 ただし、筆者の持論でもあるが、BEVは世界各国において「政争の具」に使われやすい。日本政府は温室効果ガス対策などへの対応の遅れをしばしば批判されることもある。そのようななか、ある日突然のように外圧に屈して日本政府がBEV普及に前のめりになったとしても、欧州や東南アジアのように「それでは中国製BEVへ」という消費行動は起こりにくいはずだ。 いまはBYDオートのみだが、報道では2025年にジーリーのNEV(新エネルギー車/新能源車)ブランドである「ZEEKR」が日本へ上陸予定とのこと。ZEEKRブランド車はボルボブランド車とメカニカルコンポーネントを共用しており、その点では純粋な中国メーカー開発車とは一線を画すので市場参入しやすいともいえる。 いまはジワジワといったレベルの中国車の市場参入だが、欧州やアメリカほど政府が強硬姿勢を自発的に見せるとは思えない一方で、ジワジワから「一気」へ情勢が変わることも十分あり得ることだけは、思い留めておいたほうがいいかもしれない。
小林敦志
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