樋口新葉が3年ぶり全日本表彰台「このまま終わっちゃうのかな」から「もっとできる」に復調
【限界を超えて渾身の演技を披露】 そのフリー、樋口は紫のグラデーションの衣装でリンクに入っている。 冒頭のダブルアクセルから、よどみなく静かに降りる。3回転ルッツ+3回転トーループの大技も成功。3回転ループからスピンの流れも美しかった。サルコウがダブルになったが、コレオではスパイラルで魅了。 得点が1.1倍になる後半のジャンプも、3回転ルッツ+ダブルアクセル+2回転トーループと華麗に決め、3回転ループ+2回転トーループと流れが途切れなかった。最後のフリップは少し乱れたが、スピン、ステップは力強くレベル4獲得だ。 「サルコウはファイナルでもミスしていて、気をつけながら練習もやっていたんですが、本番でもタイミングずれてしまって......でもファイナルの時から余裕を持って滑るということをやってきた。いつも全日本はすごく緊張するんですが、今年は"やってきたことをやるだけ"って落ち着いていました」 演技後は冒頭に記したように倒れ込み、起き上がれないほどだった。足に巻いたテーピングは痛々しく、6分間練習前から「あと10分で終わる」と自分に暗示をかけていたという。「息ができないくらい、張り詰めた空気のなかにいました」と語ったように、限界以上まで力を振り絞った結果だ。 135.35点でフリーは3位。総合206.40点で1点差に満たない点数で千葉を逆転し、表彰台の座をつかんでいる。
【世界大会へ向けてもう一段階上げる】 「優勝は狙っていましたけど、いろいろ考えて無理かもしれないって」 戦いを知り尽くした樋口は、夢見る少女ではない。 「正直を言えば、(表彰台は)想像できていませんでした。去年のような結果(12位)で、このままずるずると終わっちゃうのかなとも思っていたので。(2021年に)自分が最後に表彰台に乗ってから、レベルが上がりました。そのなかで休養を挟んで、こういう姿を見せられたのはうれしくて。ショート、フリーでもっとできる印象で大会を締め括れたのがよかったですね」 2025年2月には四大陸選手権、3月には世界選手権の出場が決まっている。 「昨季は復帰のシーズンだったし、力を出しきるのはちょっと難しかったですが、今季は気持ちを切り替えて競技に取り組めました。練習でも試合でも、自分をしっかり持って滑れているなって実感しています。すごく成長できた1年だったなって。ここから、もう一段階上げられるような、結果を残したいですね!」 樋口は、静かに勝利の算段を整える。
小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki