地震波には「縦波」と「横波」がありますが、重力波はどちらでしょうか?じつは、これが重力波観測の重要なカギなんです
横波が通り過ぎると何が起こるのか?
横波が通り過ぎると何が起こるのでしょうか。 まず注意してほしいことは、観測者が単独の場合は重力波に気付けないことです。以前の記事で紹介した「等価原理」を思い出してください。時空が曲がっていても、その1点では重力のない特殊相対性理論が成立する、つまり、重力があらわれないからです。 ◆ 重力波を観測する方法 まず、平行なはずの道路を考えましょう。その道路上に立っている2人の観測者を考えます。 横波が2人の間を通過する際、観測者の間の距離が変動します。ここで観測者が2人いることによって、単独の観測者では不可能だった作業が可能となります。その作業とは、観測者の間の距離を測量することです。具体的に物差しをあてて測ってもかまわないですが、ここでは光を用いて測量してみましょう。 片方の観測者から光を放って、それをもう一方の観測者に反射してもらい、その反射光を観測し、光の往復時間を測定するのです。その往復時間に光の速度を掛けたものが、光が往復した距離です。さらに、その半分が、その2人の観測者の間の距離と考えて差し支えありません。 時空の曲がり具合が時間的に変化しない場合、その観測者間の距離は変動しません。しかし、重力波が通り過ぎれば、その距離が変動するはずです。もちろん、重力波の進行方向と2人の観測者の相対的な位置が平行な場合、縦波でなければ、その距離は変動しません。 一般相対性理論における重力波は横波ですから、観測者の相対的な位置が重力波の進行方向と垂直な場合、2人の間の距離の変化量が最大になりそうです。厳密には、重力波には、プラスモードとクロスモードの2種類の偏波が存在し、進行方向の垂直面内での相対位置に応じて、変位の大きさは違ってきます。本書では、この偏波の詳細には深く立ち入らずに、定性的な議論をこのまま進めたいと思います。
運動している観測者でも重力波は測れるのか
ここまでは、止まっている(静止している)観測者を考えました。では、この道路の上を同一速度で走っている車に観測者が乗っている場合はどうでしょうか。 この場合も、重力波が通過する以前は、互いに平行な道路の上を同一速度で移動する自動車の間の距離は同じままです。また、重力波が通過すれば、その距離も変動します。ここでも、先ほどの例と同じように、距離は光の往復時間の測定を用いて定めることができます。 この考え方を宇宙空間に当てはめてみると、宇宙空間で静止する2人の観測者という理想的な状況だけでなく、等しい速度で移動する2人の観測者によっても、重力波を測定することは原理的に可能です。そのため、宇宙空間を移動する太陽系、そして、太陽系内で太陽の周りを公転する地球の上に置かれた検出器も同様に考えることができます。 2人の観測者の間の距離を測定するには、その間を往復する光の所要時間を測ればよいのです。現代の技術ではレーザー光を用います。 では、この装置だけで重力波を検出できるのでしょうか。答えは、半分イエスで、半分ノーです。 たしかに、重力波がこの測定装置を横切れば、レーザー光受信器と鏡の間の距離が伸び縮みするため、往復時間が変動するはずです。その意味では、重力波の現象を観測できそうです。しかし、レーザー光の往復時間の変動の原因は重力波だけでしょうか。 次の記事「重力波の重要な性質「トランバース・トレースゼロ」を知ってますか? じつはこれが重力波を検出する手段です!」で、重力波を観測するために必要なもう一つの性質について考えてみましょう。 ---------- ----------
浅田 秀樹(弘前大学 理工学研究科 宇宙物理学研究センター センター長・教授)