「9条」もノミネート ノーベル平和賞はどう決まる? /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語
どんな選考基準があるの?
選考過程が秘密なのでハッキリとは分かりません。ただ受賞者の受賞理由から大まかな傾向はうかがえます。第二次世界大戦前は文字通りの平和運動家や世界秩序の安定化や紛争を停止した政治家などに多く贈られてきました。 戦後は幅がやや広がり、人権擁護や民主化が大きなキーワードになっています。強権が振るわれている地域での活動家などです。国際原子力機関(2005年)など軍備縮小の歩みを刻んだ受賞も多くみられます。加えて最近では国連気候変動に関する政府間パネル(07年)のように環境保護へも高い評価を与えている傾向があります。
過去の受賞例は?
ノルウェー・ノーベル委員会委員はノルウェー国会によって選ばれ、ほぼノルウェー人と考えていいでしょう。現在の構成もそうなっています。ただしノルウェー政府は常々「政府とは関係ない独立機関」との見解を述べてはいるのです。 ただ、本当にそうなのでしょうか。例えば1994年の受賞者はパレスチナ紛争に一定のメドをつけてイスラエル建国で住む場所を失ったパレスチナ人とイスラエルの間で、前者の暫定自治政府を認める「オスロ合意」に積極的に関わったとしてアラファト・パレスチナ解放機構(PLO)議長、ラビン・イスラエル首相、ペレス同外相に与えられました。「オスロ合意」の名でわかるように交渉の中心的存在だったのはノルウェー政府です。 ただこの「政府とは関係ない独立機関」が役立つ場面もあります。例えば、中国の民主化運動指導者で服役中の劉暁波氏が2010年に受賞した際には面目丸つぶれの中国政府が猛反発しました。中国は敵視するチベット指導者ダライ・ラマ14世にも1989年に贈られた過去もあり頭に来たのでしょう。それでもノルウェー政府は平然と例の「政府とは関係ない独立機関」論で押し切ってしまいました。こうなると委員会と政府を一体とみなし(一体なのだが)、挑発を続けると中国の国際的印象が悪くなるので、これ以上強いず「無視」という形で通り過ぎさせてきました。 政治的な配慮が過ぎるという批判もあります。2012年受賞の欧州連合(EU)はまさに欧州債務危機の最中でEU崩壊かと不安視する向きもある中でした。応援のメッセージがなかったとは誰も思わないでしょう。「核なき世界」演説が評価された米オバマ大統領の受賞(09年)も「話しただけでノーベル賞か?」と疑問視されました。これもまた一種の応援とみなされます。 なお今回の「日本国憲法9条」がノミネートにまで至ったのもまた一種の「励まし系」でしょう。集団的自衛権の行使容認など安倍晋三政権の「9条骨抜き」批判への応援とも推測できます。ちなみに法律は受賞対象ではないので、受賞すれば対象は「日本国民」となります。 日本人の受賞者は1974年の佐藤栄作元首相のみ。在任中の1968年の国会答弁でいわゆる「非核三原則」(核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず)の基本方針を答弁したのが直接の評価とされています。しかし日米安全保障条約下で基地を提供している日本に米軍が核兵器を持ち込んでいないととは考えにくく、近年の公文書公開などで佐藤首相は持ち込みを知っていて日米首脳会談で米ニクソン大統領との間で密約していたのがほぼ確実となっています。