ジャニーズ性加害問題は特殊ではない…来院した被害男性は全相談件数の0.2%?専門医が鳴らす警鐘
女性のタカシさんへの行いは自分の優位な立場を利用したセクハラであり、相手の感情を無視した性暴力だ。タカシさんも口の中で射精してしまったことを恥じる必要はない。男性の外性器は刺激が与えられると反射的に勃起・射精が引き起こされることがあり、刑法上も被害者に勃起・射精が起きた=同意があった証とはならないからだ。 ただ一方で、女性は自らの行為が犯罪だとも、タカシさんを深く傷つけたとも全く思っていないだろう。さらに周囲の人々も、被害をほのめかしたタカシさんに対して「本当は悦んでいたんじゃないか」「嫌なら拒絶すればよかったじゃないか、男なんだから」と決めつけ、まともに取り合おうとしなかったという。 実際、’17年に刑法が改正されるまで、男性の性暴力被害はないものとされていた。旧強姦罪(現不同意性交罪)の処罰の対象は、男性器を女性器に挿入することを要件とした性交のみで、肛門性交・口腔性交も要件ではなかった。つまり、仮にタカシさんが被害を訴え出ていたとしても、相手が罰せられることはなかったのである。 「旧ジャニーズの事件発覚によって、男性の性暴力被害が社会に認知されるようになりました。ただ、旧態依然とした考え方で被害者をバッシングする人たちが少なからずいましたし、あんなことは芸能界のような特殊な環境でなければ起きないと、いまだに多くの皆さんが思い込んでいるように感じます。性に対する日本人の考え方、閉鎖的な環境が、そういったことを表に出にくくしている」 そう話すのは、日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院(名古屋市昭和区)の「なごみ」で’16年の開設以前から性暴力被害者の支援にあたってきた泌尿器科の山田浩史副部長だ。 「男性からの相談は、職場の上司や学校の教師・先輩から上下関係を利用して強制された成人のケース。家族や親族から被害を受けたと、児童相談所経由で相談に来られる未成年のケースが多い。あとは20代で被害に遭ってPTSD(心的外傷後ストレス障害)をずっと抱えて生きてきたという年配の患者さんもいました」 病院を拠点に活動する「なごみ」は、医療の専門家がチームで被害者の身体と心をケアすることができるが、男性の場合、女性と違って72時間以内の緊急避妊処置が不要なこともあり、被害を受けてから相談に至るまでの時間が空いてしまうことが、救援の障壁になっている。肛門や咽頭、衣類などに残った加害者の精液や唾液、体毛を採取してDNA鑑定に回すことができないのだ。 「性暴力は外傷が残らないのが特徴です。(被害後に)シャワーを浴びて、着替えて来られたら、検体も物的証拠もないので、被害の立証が出来ません。肛門性交されたとしても、肛門の裂傷は2、3週間も経てば治ってしまいます」 そのため、医療支援は、性感染症のチェックと精神科等によるメンタルヘルスに限られているのが現状だ。また物的証拠が得られないことから、告訴したとしても、刑事事件化は難しい。 旧ジャニーズの事件が明るみになって1年以上が経過し、性加害そのもののマイナス面にスポットを当てた報道がめっきり減ったことに山田氏は諦めにも似た焦りを口にする。 「今現在は、被害者救援のシステムを整備し、支援のためのマニュアルを作ろうとしている段階です。報道がなくなると、世間は、こうした事件もなくなったと思ってしまう。だけどそうじゃないんだということを、マスコミには示し続けてもらいたい」 ちなみに「なごみ」では、’16年から男女を問わず性暴力被害の相談を受け付けてきたが、電話での相談は今年3月31日までに1万3,715件に上るものの、男性からの相談は約700件弱(同一人物からの重複を含む)であり、来院に至ったケースは40件に満たない。つまり全相談件数の0.2%しか病院に来ていない、というデータがある。男性の性暴力被害は、決して芸能界のような特別な世界だけの話でもなければ、一部の特殊な人たちだけに起きるわけでもない。誰の近くにも被害者はいるはずなのに、いまだに社会には偏見が根強く、被害者が声をあげたくてもあげられない実態がある。 注)個人のプライバーに配慮し、文中の設定は個人が特定できないように一部、変えてあります ◆山田浩史医師プロフィール 1994年福島県立医科大学卒業。旧名古屋第二赤十字病院で研修。名古屋大学泌尿器科教室へ入局。同附属病院で医院を経て1998年9月旧名古屋第二赤十字病院へ再赴任。その後 泌尿器科副部長に就任、診療業務に従事。 ’11年3月11日の東日本大震災発災に際し、救護班として活動。人道支援に目覚める。’17年6月から男性性被害者対応医師として日赤なごやなごみの活動に参加。各種学術集会・メディアを通して男性性被害の実情を訴え続けている。 主な資格は医学博士、泌尿器科専門医・指導医、内視鏡手術認定医、ロボット手術プロクター、がん治療認定医
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