松本民芸家具の工房で 新たなラッシ編み職人奮闘 長野県松本市
松本民芸家具(長野県松本市)の工房で、耐久性に優れた植物のフトイを編み込んで椅子の座面にする「ラッシ編み」を手掛ける職人が活躍している。昨年7月に東京から移住した前田仁(じん)さん(51)=松本市開智1=が、前任の職人から4カ月間ほど手ほどきを受け、伝統技術を習得した。現在は月に約20脚作っている。 ラッシ編みは17世紀ごろに欧州で広がった技術で、松本民芸家具でも昭和23(1948)年の創業から引き継いできた。民芸運動で知られる浜田庄司に英国の古いラッシチェアの修理を依頼された際に、松本民芸家具の創始者である池田三四郎の妻・キクエが、椅子のラッシ編みをほどいて編み方を研究して技術を確立した。その後、地元の女性や職人たちの間で伝承してきた。 ラッシ編みの材料となるフトイはカヤツリグサ科の多年草で、浜松市で生産されていたが、近年は高齢化により栽培農家がわずかとなった。松本民芸家具は、8年前から大町市内で自社生産している。原材料の生産と需要の低下によりラッシ編み職人が減って、今は前田さんだけが技術を継いでいる。 前田さんは元々もの作りに興味があり、松本民芸家具が好きだったことから募集を見て職人になった。前任者が退職することは事前に知っていて、伝統技術を自分1人で引き継ぐプレッシャーもあったが、「お客さまにすてきだと思ってもらえる椅子を作ろう」と日々技術を磨きながら制作に励んでいる。 松本でも飲食店などでフトイを使用したラッシ編みの椅子が置かれている。今は「松本の人にもっと身近なものだと感じてほしい」と、フトイを生かした小物作りにも挑戦している。
市民タイムス