アメリカのTikTokユーザーは「ポルノ」のことを「corn」と書く? そのウラにある「深い理由」
隠語を使う若者たち
朝起きるとすぐにスマホをタップしてSNSアプリを立ち上げる。そこに並んだ投稿や動画を見て、怒ったり、悲しんだり、喜んだりする――私たちの生活の奥深くにSNSが浸透するようになってすでに数年が経ちました。 そしていまやSNSは、政治や経済にすら巨大な影響を与えることも明らかになってきています。社会について考えるためには、SNSの動向を追うことが必須となっているのです。 SNSと社会の関わりの現在地について、アメリカの事例を参照しながら、その最前線を教えてくれるのが、ライターの竹田ダニエルさんによる『SNS時代のカルチャー革命』という本です。 著者の竹田さんは、アメリカで理系の研究者として働くとともに、アメリカのカルチャーの最新事情を継続的にレポートし、日本に紹介しつづけています。 たとえば同書がレポートするところによれば、いまアメリカの若いTikTokユーザーのあいだで「アルゴスピーク」が話題になっているそうです。これは、なにか言葉を使うときにわざと間違ったスペルや発音などを用いることを指していますが、じつは若い人がそうした言葉を使うのには、意外な理由があるというのです。 〈TikTokは現在人気のSNSの中でも最も強力なパーソナライズ能力を持ったアルゴリズムを使用していることで知られる。ユーザーはクリエイターを「フォロー」することができるが、ほとんどの人は「フィルターバブル」が発生した「For You(おすすめ)ページ」を通じて動画を閲覧している。 普段どのようなメディアを見ているか、どのような広告にエンゲージしているかなどのデータに基づきコンテンツが表示されるため、ユーザーは、アルゴリズムによって楽しめると判断された動画にしかエンゲージせず、政治的な見解が大きく異なる動画などがレコメンドされることは少ない。例えば、白人の保守的なシスジェンダー・ストレート男性には、クィアのPC(有色人種)ユーザーとは全く異なるFor You ページが表示されるだろう。〉 〈同時に、TikTokはアルゴリズムによって行われる「検閲」も強力である。不適切、攻撃的、またはコミュニティガイドラインに違反しているとみなされる特定のタイプのコンテンツを独自のアルゴリズムが検出し、フィルタリングする。 検知された「不適切」な動画は一部の音声、あるいは動画そのものが完全に削除されたり、For Youページに表示されないようにして視聴者数を減らされたり、投稿者のアカウントごと凍結されてしまうこともある。このアルゴリズムによる厳しい検閲を逃れるため、「アルゴスピーク」は生まれたと言われている。 よく検閲されるのは、世界的に論争の的になっている政治的なトピックや、人種、性的な内容、薬物、精神的な問題に関連するものである。そのため、アルゴスピークによって置き換えられる単語やフレーズは、アルゴリズムによって「扇動的な言論」として検閲・削除される可能性が高いものが多い。 例えば「dead(死んだ)」の代わりに「unalive(生きていない)」、「porn(ポルノ)」の代わりに「corn(とうもろこし)の絵文字」、「sex worker(セックスワーカー)」の代わりに「accountant(会計士)」など。 これらの例からわかるように、アルゴスピークは、同じような発音の単語への置き換えから、特定のコンテクストに精通しているユーザーにしか通じないものまで、多岐にわたる。 他に有名なアルゴスピークとして、「lesbian」を「le dollar bean」に置き換える例がある。これは「le$bian」と「暗号化」して書かれたときに起こった進化で、「TikTok voice」と呼ばれるテキスト読み上げ機能がそのスペルを「le dollar bean」と読み上げたことが由来になっている。 実際に身の回りのZ世代と話すときも、TikTokで流行っている言葉を用いることは多々あるし、このようなアルゴスピークのフレーズも「皮肉的」なユーモアとして、頻繁に使われている。〉 さらに【つづき】「「サンリオ」「セーラームーン」がアメリカの若者のあいだで大ヒット。「少女らしさ」を楽しむトレンドって?」(12月30日公開)の記事では、「少女らしさ」をめぐるアメリカの現在地についてくわしく報告しています。
竹田 ダニエル(ジャーナリスト、研究者)