劇場で起こっていることは“事件”。 Aマッソ加納が小説の題材に選んだ 「お笑いライブ」の熱狂と非日常性
ネタの広さと小説の広さの違い
――加納さんはここ数年、コンスタントに小説を書かれていますが、執筆活動は楽しいですか? 加納 そうですね。よくも悪くも、小説に対しては本業という意識はあまりないので、責任感を背負うという感覚が希薄で。気負わずに取り組んでいますね。ただ、これまでいくつか書いてきて、小説は向き合いがいのあるジャンルではあるなと思います。 ――ネタとは違う、小説ならではの面白さはどこにありますか? 加納 ネタにはウケる/スベるという基準がありますけど、小説はもう少し広い感じがしますね。うまかったらいいわけではなく、読んだその人にとってよければ「いい小説」になり得る。でもネタの場合は「スベっていてもいいネタ」というのはあまりない気がするので。ただ、中に入ってしまえば自由度が高いのは小説ですけど、題材という意味ではネタのほうが広いかもしれません。小説の場合「この題材でどれだけ書けるかな」と不安になることがあるので。 ――なるほど。ネタの方がいろんな題材で作れるけれど、小説は題材選びが重要な分、深くまで行けることもある。 加納 そうですね。 ――実際に、小説を書いていて、ネタでは行けないところまで行けたという感覚はあるものですか? 加納 小説の登場人物は自分ではないので、「ラジオでは言わないけれどこう思っていた」という感情を忍ばせたり、膨らませたり、誇張したりすることができるな、と思います。 ――加納さんは現在放送中の『スナック女子にハイボールを』(中京テレビ)で、ドラマの脚本も書かれていますよね。脚本の仕事はどんな感覚で取り組んでいますか? 加納 スタッフの皆さんといっしょに作っているという感じですね。プロット会議から参加して、いろいろ意見をいただいて期待に応えるという感覚です。 ――脚本はプロデューサーや演出家などの反応があると思いますが、小説の場合は基本的には最後まで一人で書くことになりますよね。その、最後までたどり着くよりどころはどこにあるんでしょう? 加納 かなり迷いながら書いていますよ。最初はやっぱり、読んでくれた編集者さんの感想ですかね。まだ本数も重ねていないので、小説ではまだ自分のストロングポイントを把握できていないというか、「こういうものが読みたいんでしょ?」という感覚はまったくないです。発表したあとの反響もそんなに細かく気にするわけではないですが、「加納さんっぽいですね」と言われたときに、そこから少しずつ汲み取っています。 加納愛子(かのう・あいこ) 1989年、大阪生まれ。2010年、幼馴染の村上愛とともにお笑いコンビ「Aマッソ」を結成。著書に『イルカも泳ぐわい。』、『これはちゃうか』、『行儀は悪いが天気は良い』がある。現在放送中のドラマ『スナック女子にハイボールを』(中京テレビ)では、単独で初の連ドラ脚本を担当。テレビ朝日『A LABBO』(毎週火曜25:56~)、MBSラジオ『AマッソのMBSヤングタウン』(毎週木曜22:00~)、テレビ東京『誰でも考えたくなる「正解の無いクイズ」』(毎週月・火・水曜17:30~)にレギュラー出演中。2024年7月にはAマッソ単独ライブ「縦」を東京・名古屋・大阪・福岡の4都市で開催予定。
釣木文恵