衣服を盗み、逃げられない女と強引に結婚!? 羽衣伝説に秘められた「歴史の謎」とは
天女が水浴び中に羽衣を隠されて、天に戻れなくなったという羽衣伝説。その後の展開は地域によって多少異なるが、そこに登場する天女は、いずれも可憐な女性ばかりであった。しかし、中には元の姿が蛇で、嫉妬深い女性であったと伝えられるところもある。いったい、どんなお話だったのだろうか? ■各地に伝わる羽衣伝説とは? 羽衣伝説といえば、若くて美しい天女が水浴びしているうちに、男が羽衣を隠してしまうところから始まる物語である。伊香刀美という名の男が、白犬に衣を盗ませてこれを隠し、飛び立てないまま残らざるを得なかった天女を、半ば強引に妻にしたという余呉湖に伝わる物語が、よく知られるところだろう。 二人の間に2男2女をもうけたものの、後に妻が羽衣を発見。子を置き去りにしたまま一人天に帰ってしまうという悲しい結末が語られている。それでも、母に会えぬと泣く子に、年に一度、7月7日だけ会えるとの七夕伝説を組み込んだ伝承もある。それだけはかろうじて、ほっとさせられるのだ。 よく似たお話ながらも、三保の松原に伝わる羽衣伝説の場合は、天女が天に舞い戻るケースと戻らないケースの両方が語られているようだ。舞い戻らない理由は、天女が男と契って、すでに穢れた身になったからだとか。それゆえ天に舞い戻ることを諦め、この地に祀って欲しいと夫に頼み込んだというのだ。 また、衣を隠したのが男ではなく老夫婦だとする伝承もある。それが丹後半島に伝わるもので、ここでは天女が老夫婦の娘となって、10年にもわたって酒造りに精を出したことにしている。裕福になった老夫婦が、もはや娘など邪魔とばかりに追い出してしまったというから、何とも無慈悲である。 天女は各地を転々とした後、最後に奈具の村に落ち着き、ここで豊受能売命(豊受大御神)として祀られるようになったとも。豊受大御神といえば、かの伊勢神宮の外宮に祀られている神様だから、俄然、興味が湧いてきそう。 その他、鳥取県の羽衣岩や、大阪府交野市の天野川、鹿児島県の喜界島、沖縄県南風原町等々日本各地に伝えられているばかりか、朝鮮半島やベトナム、インドネシアなどでも同様の伝説が言い伝えられているというのも興味深い。 もしかしたら、弥生時代あるいはそれ以前に、これらの地域から渡来してきた人々によって伝えられてきたのではないかとも考えられるからだ。