ハリルをイラつかせるセレッソ復帰・清武の凱旋デビュー延期事情とは
清武が移籍を検討しているという情報を、セレッソ側が把握したのは年が明けて間もないころだった。しかも、オファーを出しているヨーロッパの他のクラブではなく、2010シーズンから2年半在籍した、いまも深い愛着を抱くセレッソへの復帰を望んでいるという。 すでに新チームの体制は固まっていたセレッソだったが、清武本人の思いを尊重する形で1月13日にオファーを出す。しかし、違約金を600万ユーロ(約7億2000万円)に設定しているセビージャの反応は鈍かった。 「最後のほうはあきらめていました。話が進まない、これはダメだなと。移籍金の金額もそうですけど、ウチもお金があるわけでもないので。分割や先延ばしで払おうとしたんですけど、そういうことを先方がなかなか飲み込んでくれませんでしたので」 玉田社長をして、半ば破談を覚悟させた交渉が急展開したのが現地時間1月29日。アルゼンチンの強豪ロサリオ・セントラルに所属していたMFワルテル・モントーヤを獲得したことで、セビージャがすでに埋まっていたEU外選手枠を空ける必要性に迫られたからだ。 必然的に清武をめぐる動きが加速されるが、それでも違約金は500万ユーロ(約6億円)と思った以上に下がらない。締め切りまで残り数時間となったところで交渉が合意に達したぎりぎりの舞台裏を、玉田社長はこう明かしてくれたことがある。 「メインスポンサーのヤンマーさんの支援が一番大きかったですね。清武がセレッソに戻りたがっていると察していただき、それならばぜひとも応援しようと言ってくださったので」 想定外の出費となった6億円もの違約金は、玉田社長をして「2017年度の借金となります」と苦笑いさせる。それでも自分のために、あらゆる関係者が奔走してくれたことを帰国した羽田空港で知らされた清武は、感謝のあまり涙ぐんでもいる。 「不安はあったし、ドキドキしてもいたけど、セレッソがすべてを出してやってくれているとも思っていたので、少し安心している自分がいたのも本音です」 セビージャでは得られなかった「期待」あるいは「信頼」といった言葉を、ひしひしと感じる。だからこそ、無理をしてでも開幕戦から出場したい思いを必死に封印した。悪化させて長期離脱したほうが、多大なる迷惑をかける。前出の杉本がこう続ける。 「次は戻って来られそうなので。期待してもらってもいいと思います」 2試合を終えて未勝利のセレッソへ感謝の思いを伝え、何よりも今回の移籍が正しかったと証明するために。「46番」を背負った清武は11日、札幌ドームでの北海道コンサドーレ札幌との次節から、新たな挑戦を開始させる。 (文責・藤江直人/スポーツライター)