自社物件の孤独死で社会的孤独の課題を痛感。賃貸空室の無料貸出など居住支援活動を大家に広める活動も 岡野不動産合同会社
空室を「無料」で貸し出し。論文として発表することで、問題提起も
岡野さんが入った大学院の指導教官は、資源循環やごみ問題などを研究しており、フードロスやフードバンクなどの事例を授業で扱っていました。フードバンクを実際に見てみようと思った岡野さんは、三重県にあるフードバンクを見学した際に、フードバンクと一緒に活動していた市民団体から話を聞くことになります。 当時、その市民団体の事務所はワンルーム。支援のための食料がいっぱいでスペースがないほどでしたが、どこにも行き場のない外国人がそこで寝泊りしたり、付近の川に入って魚を取って生活しているなど、外国人の悲惨な状況を知ることになりました。 「そこで『タダでうちのアパートの空室を1部屋使ってみてください』と提案してみたのです。空室は放っておいてもタダで、貸さなくても収益は0円。物件数100戸程度にまで事業が成長すれば、その1%=1戸を無料で貸し出しても収益に大きな影響はありません。もともと空き家問題の関心から大学院に入ったので、自分の空き家活用の研究にもなると考えました。 市民団体は最初は遠慮されていましたが、いざ借りてもらうと住まいが必要な人が何人も出てきて大助かりだったということでした。さらに食料支援や生活支援の活動から、住居という支援ができるようになって外国人を助けられる幅が広がった、という言葉をもらいました」 岡野さんはこの取り組みを論文「民間大家による住宅確保要配慮者に対する家賃無料住宅についての考察」として発表。不動産投資メディアなどでも紹介され、多くの人が知ることになったわけです。
「事業が成長してこそできる」岡野さん流、住まいに困っている人への関わり方
これらの経験を経ながら大家業を始めて13年以上が経ちました。現在、岡野さんが大家として注力している活動は3つあります。 「ひとつは『住まい探しに困っている人の入居申込を断らない』こと。人が暮らしていくには最低限、家が必要です。家賃債務保証会社の審査を通ることが前提ではありますが、基本的に入居を希望する人を断りません。 2つ目は引き続き市民団体と協力し、空室を緊急で住むところを必要とする人のためのシェルターとして活用してもらうこと。現在、私の所有する物件215室のうち、アパートの4室を提供しています。特に外国人は見知らぬ土地で頼る人もいないうえ、ここ三重県では工場で働いている非正規労働者が多く、会社都合で短期に職を失うことも日常茶飯事です。言葉の壁や必要な手続きがわからず、十分な社会保障も受けられていないので、住まいの確保ができません。かなり危機的状況にあるといえるでしょう。 そして3つ目として、高齢者の多い物件で交流会を実施して、住民同士のつながりをつくっています。同じ敷地内に住んでいるにもかかわらず、住人間の関係は希薄でした。時にそれは孤立を生み、孤独死にもつながります。そこで住民同士が仲良く話し合えるきっかけを提供することで、自分たちで協力しあってお隣同士で助け合う関係をつくろうとしています」
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