AMD最新Ryzen AI 9 HX 370を搭載!ライバルを圧倒する高性能ミニPC「EliteMini AI370」
IntelやAMDの最新ノートPC向けCPUでは、最新世代のCPUコアに加え、設定しだいでは3Dゲームもそれなりのクオリティで楽しめるGPUコア、そしてMicrosoftの「Copilot+ PC」に対応するための高精度なNPU(Neural Processing Unit)を搭載する。こうした最新世代のCPUを搭載するPCは、AI活用を含めた将来性を考えると、非常に魅力的な存在と言ってよいだろう。 【画像】ノートPC向けのRyzen AI 300シリーズを搭載する 今回取り上げるMINISFORUMのミニPC「EliteMini AI370」は、AMDの最新世代CPU「Ryzen AI 9 HX 370」を搭載したパワフルなミニPCだ。コンパクトな筐体からは想像もできない性能や使い勝手、拡張性などを細かく検証していこう。 ■ 最新世代のRyzen AI 9 HX 370を搭載したスタンダードモデル MINISFORUMでは多数のミニPCをラインナップしており、いくつかのブランドに分けて整理している。EliteMiniシリーズは比較的高性能なCPUを搭載するスタンダードなミニPCのブランドだ。AtomManシリーズのように高性能なGPUや小型液晶ディスプレイなどのユニークなギミックはないが、性能と価格のバランスに優れるのが特徴と言える。 今回取り上げるEliteMini AI370の最大の特徴は、冒頭でも紹介したがRyzen AI 9 HX 370を搭載することだ。CPUコアは最新世代の「Zen 5」コアが4基に加え、3次キャッシュの容量が少ない「Zen 5c」コアを8基で合計12コア24スレッドに対応する。AMDのノートPC向けCPUでは、デスクトップPC向けCPUを調整した一部の超高性能モデルを除き、8コア16スレッドがスタンダードな構成だったことを考えると、大きく進歩した。 IntelではAMDに先駆け、こうした異なるアーキテクチャのCPUコアをまとめて搭載する仕組を取り入れている。しかしRyzen AI 9 HX 370を含めた「Ryzen AI 300」シリーズでは、アーキテクチャ自身は同じもの(Zen 5)を利用しており、OSやソフトウェアが対応しやすいというメリットがある。 このAMDならではのCPUコア構成については、「Zen 5+Zen 5cコアの異種混合CPU「Ryzen AI 300」の設計が公開」の記事でも詳しく解説が行なわれているので参照してほしい。 GPUコアはRDNA 3.5世代の「Radeon 890M」で、世代の古いRyzen 7 8845HSやRyzen 7 7840HSに搭載されているRDNA 3世代の「Radeon 780M」からやや強化されているほか、演算ユニットも16基に増えている(8845HSや7840HSは12基)。 またAI演算用のNPU単体の演算能力はRyzen 7 8845HSの最大16TOPSから最大50TOPSと大幅に強化された。過去の世代のCPUと比べると、あらゆる面で強化されたCPUと言ってよいだろう。 デザインはMINISFORUMのミニPCらしい、シンプルなスタイルだ。筐体はプラスチック製だが、深みのあるシルバーで統一されており、安っぽさは感じない。底面側にCPUやメモリ、そして銅製のヒートパイプなどのCPUクーラーを搭載する構造で、底面はほぼ全面にスリットが設けられた通気性のよい構造だ。両側面にも吸気口はあるが、これは天板内部に設置されているSSD冷却ファン用のものだろう。 幅は130mm、奥行きは127mmとほぼ正方形に近いサイズ感で、厚みは46.9mm。ぱっと見はいつも見ているミニPCよりちょっと小さめかな、とも思ったのだが、寸法自体はほかのミニPCと大きな違いはない。底面と側面が曲面になっていることもあって、小さく感じるのかもしれない。 ディスプレイ出力端子は背面のDisplayPortとHDMI、前面のUSB4ポートの3系統だ。周辺機器との接続で利用するUSBポートはすべてUSB 3.2 Gen 2対応で、前面と背面に2基ずつ装備する。2基の有線LANポートはどちらも2.5GBASE-T対応と、高性能なミニPCとしては平均的な構成と言える。ただし個人的には、USB4ポートを背面にも1基欲しいところではある。 ■ 内蔵GPUの性能向上は著しい 外観は今まで見てきたミニPCとよく似ているが、重要なのは「中身」だ。特に最新世代のCPUを搭載することもあり、実際の性能がもっとも気になるところだろう。ということで実際に、いつも行っている各種ベンチマークテストを実行してみた。 比較対象は、1世代古いRyzen 7 8845HSを搭載するGMKtecの「NucBox K8」、そしてIntelの「Core Ultra 7 165H」を搭載するASUSTeKの最新NUC「NUC 14 Pro」だ。NucBox K8はCPUの世代交代による影響、そしてNUC 14 Proは、IntelのノートPC向けCPUを搭載する最新ミニPCとの違いをチェックしていきたい。 まずは軽作業を中心としたPCの総合力を検証できる「PCMark 10 Extended」の結果を見てみよう。Scoreが高いほど性能も高い。総合Scoreも含めて、トップのScoreを獲得した項目が多いのはEliteMini AI370だった。 1つ世代が古いCPUを搭載するNucBox K8と比べると、コンテンツ制作を想定するDigital Contents Creationや、3Dゲームを想定するGamingが大きく伸びている。NUC 14 Proは、PCの基本操作に関するEssentials以外の項目ではおよばないという結果になった。 GamingのScoreは内蔵GPUの強化をはっきりと示しており、次いでテストした3DMarkでも同じ傾向を示している。下のグラフは3DMarkの中でもDirectX 12ベースの「Time Spy」、DirectX 11ベースの「Fire Strike」、DirectX 12ベースで軽量なゲームを想定した「Night Raid」の結果をまとめたものだ。 NucBox K8との比較では、すべての項目でEliteMini AI370が大きく引き離す結果となった。またNUC 14 ProとNucBox K8では、比較的処理が重いTime SpyでNUC 14 Proのほうが優れていたのだが、EliteMini AI370のScoreはそのNUC 14 Proもさらに超えた。 実際のPCゲームもいくつかプレイしてみた。まずは、普段ミニPC同士の比較で利用している「ファイナルファンタジーXIV:黄金のレガシー ベンチマーク」と「レインボーシックス シージ」だ。どちらも解像度はフルHD(1,920×1,080ドット)、ファイナルファンタジーXIV:黄金のレガシー ベンチマークではテスト後に表示されるScore、レインボーシックス シージでは平均フレームレートを比較する。 こちらも3DMarkと同じ傾向を示している。EliteMini AI370のScoreやフレームレートは、ほかのミニPCと比べると抜きん出ており、実際のPCゲームでも内蔵GPUの性能向上を実感できることがよく分かる。 もうちょっと重いゲームだとどうなるかも気になったので、「サイバーパンク2077」と「F1 23」をプレイしたところ、サイバーパンク2077ではグラフィックス設定が「低」なら平均フレームレートは60を超える。フルHDで「高」でも41なのでそこそこプレイできる感触だ。 F1 23ではフルHDでグラフィックス設定が「高」でも平均フレームレートが83fps、最低でも70fpsとかなり高い。ただ「最高」設定にするとレイトレーシングへの対応が必要になり、平均フレームレートは30前後まで落ち込む。さすがにこの世代でも高度なレイトレーシングへの対応は難しいようだ。 このようにGPU性能の向上ははっきりと感じる中で、それほど伸びなかったテストもあった。下のグラフは今までのミニPCの比較でよく使っているTMPGEnc Video Mastering Works 7による動画エンコードソフトの処理速度を比較したものだ。 EliteMini AI370の処理速度はNUC 14 Proよりは速いとはいえ、NucBox K8とは大きな違いがない。CPUコアの世代が進んだ上、コア数やスレッド数も純増していることを考えると、ちょっと意外な結果だ。 ■ 内部へのアクセスは容易、拡張できるのはM.2 SSDのみ 最後に拡張性をチェックした。底面を上に向けた状態で四隅を見ると、深い穴の奥にネジがある。そのネジを、軸が細いドライバを挿して外す。ネジが外れたら天板を上にした状態に戻そう。ネジが外れなくても、天板を上にするとネジが下に落ちるので心配はいらないのだが、この時にネジが散乱する可能性もあるので、広い机で作業したい。 ネジが外れると、天板が引き抜けるようになる。内部には金属のプレートがあるが、ネジが外れた状態では絶縁シールで固定されているだけだ。金属プレートを押さえているシールをはがすだけで、内部にアクセスできるようになる。なお金属プレートはファンを装備しており、基板とつながっている電源ケーブルを引きちぎらないように注意しよう。 天板方向の基板面には、M.2スロットが2基装備されており、メモリスロットはない。M.2スロットにはシステム用の1TBモデルがすでに装備済みで、もう1つのM.2スロットを自由に利用できる。天板内部の金属プレートとSSDの間には熱伝導シートが貼られており、この金属プレートと装備されたファンでSSDの冷却を行なう構造だ。PCI Express 4.0対応SSDの発熱は大きめではあるが、しっかり冷却できるコトが分かる。 最近のミニPCと比べると内部へのアクセス難易度は低めで、拡張性も平均レベルだろう。メモリを追加、交換できないのはちょっと残念ではあるが、標準で32GBを搭載しているのでほとんどの作業で問題が発生する可能性は非常に低い。 まとめとしては、やはり内蔵GPUの強化が非常に印象的だ。3DMarkなどベンチマークテストの結果だけではなく、実際のゲームでもその性能の高さを実感できる結果を踏まえて考えると、ビデオカードがない環境でもそれなりにPCゲームを楽しめる環境は整ってきたと言ってもよいのではないだろうか。すべてのゲームでこうした結果が得られるわけではないのはもちろんだが、スゴイ時代ではある。 温度は動作音も良好だ。これまでのMINISFORUM製MINISFORUMと同様、アイドル時は非常に静かに利用できた。CPU負荷が高い状況でもCPU温度は80℃前後までしか上がらず、ファンの動作音もそれほど気になる音ではない。コンパクトかつ強力、そして静音性も高い本機は、ミニPCとして着実に進化した1台と言ってよいだろう。
PC Watch,竹内 亮介