米民主党、マスク氏を「影の大統領」指摘 トランプ氏との離間狙いか
米連邦議会の民主党が、実業家のイーロン・マスク氏による法案審議への「SNS(ネット交流サービス)介入」に批判を強めている。共和党のトランプ次期大統領に代わる「影の大統領」だと指摘。マスク氏の存在感を際立たせることで、「他人が目立つこと」を嫌うトランプ氏との離間を図ろうとする政治的意図も透けて見える。 【写真まとめ】トランプ次期政権の人事 主な顔ぶれ(2024年11月現在) マスク氏への批判は、当面の政府運営資金を確保するための「つなぎ予算案」に反対したことを契機に強まった。民主、共和両党の上下両院指導部が17日に合意案を発表したが、マスク氏は18日未明にXへの投稿で「この法案は可決すべきではない」と訴えたのを皮切りに「法案は犯罪的だ」「今すぐ議員事務所に電話して、この脅威を止めてくれ」と半日にわたって100件以上投稿を繰り返した。 共和党内には元々、「つなぎ予算案」に付随して他の政策が法案に盛り込まれていることへの不満が高まっていた。ただ、11月の議会選に基づいて共和党が上下両院で多数派になるのは2025年1月からで、年内は上院で優勢な民主党にも配慮しないと法案は通らない。 ジョンソン下院議長は議会の現状も踏まえて党内の説得を試みたが、マスク氏が反対論をあおり、18日午後にはトランプ氏も反対を表明。法案可決の見通しが立たなくなり、審議は頓挫した。 19日にトランプ氏やマスク氏の要求を盛り込んだ第2案が採決にかけられたが、共和党の一部と民主党の大半の反対で否決。20日に第3案が可決され、予算切れによる政府機関閉鎖は回避された。マスク氏は第3案には不満をにじませていたが、「(議会勢力の)現状を踏まえると、ジョンソン氏は良い仕事をした」と評価した。 一連の混乱劇について、民主党は「選挙で選ばれていない大金持ちが、(当初の)超党派の合意案をつぶしたのが原因だ」とマスク氏に批判の矛先を集中させた。 急進左派のサンダース上院議員(民主党系無所属)は「(当初案は)地球上で最も金持ちのイーロン・マスク大統領のお気に召さなかった」と指摘。マーフィー上院議員(民主党)は流動的な議会審議の状況について「大金持ちの意見が大事だ。15分後にはマスク氏のXへの投稿で状況は変わり得る」と形容した。 さらに共和党内でマスク氏を来月から始まる新会期の下院議長に推す声が出たことで、批判の声が高まった。下院議長は憲法の規定では現職議員である必要はなく、理論上はマスク氏も就任可能だ。ラスキン下院議員(民主党)は「既に(立法、司法、行政と並ぶ)第4の権力なのだから、下院議長なら降格だ」と皮肉った。 民主党がマスク氏を標的にするのは、11月の大統領選で勝利したばかりのトランプ氏よりも批判しやすいからだ。マスク氏は「世界一の富豪」だが、民意の後ろ盾はない。さらにマスク氏を「実質的な大統領」と言い続ければ、トランプ氏が不快感を示し、両者の不和を誘える可能性もある。 マスク氏もこうした政治的意図は意識しているとみられる。19日の第2案について、民主党が「マスク・ジョンソン提案」とレッテルを貼ったのに対して、「立案者は私ではない。トランプ氏、バンス氏(次期副大統領)、ジョンソン議長の功績だ」とトランプ氏を立てる姿勢を見せた。自身への批判を強める民主党左派を念頭に、次の民主党予備選で「より穏健な候補を資金面で支援する」との考えも示し、民主党をけん制している。 マスク氏は11月の大統領選で、少なくとも2億6200万ドル(約409億円)を投じてトランプ氏を支援。次期政権では政府外助言機関「政府効率化省(DOGE=ドージ)」を率いて、歳出削減や規制緩和に取り組む見通しだ。【ワシントン秋山信一】