『ヒロアカ』の劇伴作家・林ゆうき キャラクターを音で表現 「連想させるものを重ねて」
日テレNEWS
アニメ・映画・ドラマなどの映像の背景で流れる音楽を制作する、劇伴作家・林ゆうきさん(42)にインタビュー。アニメ『僕のヒーローアカデミア』の劇伴を手掛ける林さんが、主人公・緑谷出久(通称:デク)をはじめとする作中のキャラクターたちを、音楽でどのように表現したのか、その制作過程を伺いました。 【画像】劇伴作家・林ゆうき 劇伴制作の魅力語る
■「死柄木を救いたい気持ちを入れたくて」主人公・デクを音楽で表現
『僕のヒーローアカデミア』は、炎を放つなどの超常能力“個性”を持つキャラクターたちが、その能力をいかし、人を助けるヒーローになることを目指す物語です。 2016年にアニメシリーズの第1期が放送され、最新シリーズとなる第6期は2023年3月まで放送されていました。第6期は、ヒーローとヴィラン(敵)が全面戦争を繰り広げる物語。林さんは6期の劇伴を制作するにあたり、そのシリアスな展開に合わせ、今までのシリーズを通して使用してきた劇伴に変化を加えたといいます。 ――劇伴の制作過程を教えてください アニメの場合は最初に打ち合わせがあって、監督とかプロデューサーとかと「こういう作品で、こういうふうに見せたい」「この年齢層に届いて欲しい」とか、(作品の)コンセプトを聞いて。そして、音響監督さんからメニュー表で「こんなふうな曲を作って下さい」と(具体的なオーダーが出る)。 ――『僕のヒーローアカデミア』のメニュー表には、どのようなことが記載されていましたか? (アニメ1期の)メニューなんですけど、主人公のデクくんのテーマの曲『You Say Run』には、「覚醒、ついにデクにも個性が。オールマイトのようにファンファーレ的イントロをまとって音楽スタート」、「アクションシーンでも使える」みたいな感じで書いてあるんです。 ――6期はシリアスな展開が多いですが、劇伴はどのように制作しましたか? 音響監督からとんでもないことを言われて。6期ですよ、6回目で「主人公の新しいテーマ曲を作ってくれ」って言われたんです。今までずっと『You Say Run』というメインテーマを使ってきたのに。“メインテーマ変えるの?”って。監督から「(物語の)後半になって世界観がもっと複雑に壮大になってきて、新たな一面も、彼(主人公)が成長して学んで戦って培ったものとして使いたい」って言われて、悩みながら作ったんです。死柄木(しがらき)っていう主人公と相対するキャラクターがいるんですけど、彼のことを主人公のデクくんは「倒したい」じゃなくて「助けたい」っていうんです。その「助けたい」って気持ちが、彼がヒーローを志す原点なので、僕がやったのは、新しく作った(主人公の)メインテーマの一番最後の大サビの後に、死柄木くんのテーマ曲のメロディーの音符をひっくり返したのを入れて。デクくんはヒーローになって、死柄木はヴィランっていう敵になっているけど、一歩間違ったら自分(デク)もヴィランになってしまったかもっていう物語なので。ヴィランになってしまった死柄木を救いたいっていう気持ちを入れたくて、ひっくり返したモチーフを入れたんです。そういうことを提案するのが面白い。お客さんが喜んでもらえることを音楽で提案するのが楽しいですね。 ――音符をひっくりかえすとは、どういうことでしょうか? 敵のモチーフが、“ド・レ・ミ”だとしたら、“ミ・レ・ド”にひっくり返して主人公の新しいテーマに入れたり。 ――物語やキャラクターを音で表現するんですね。ほかに、特定のキャラクターを表現した曲はありますか? 6期でいうと『Dabi Dance』っていう曲です。荼毘(ヴィラン側のキャラクター)が彼の父親にひどい扱いをされてた事を皆の前でバラしてしまうシーンでかかる曲なんですけど。エンデヴァー(荼毘の父)になぞらえて、エンデヴァーのモチーフを入れて。(エンデヴァーが炎を放つ能力を持っていることから)パチパチパチパチと後ろで燃えている音がしながら、鳴るピアノを入れたり。轟くん(荼毘の弟)のモチーフなど、彼の過去を連想させるようなものをいっぱい重ねて。少年の笑い声とか、荼毘は泣きながら笑ってるんだろうみたいな音を入れて世界観を作っています。