さよならマングース 絵と唄に生き続ける奄美の動物たち
CDには、もとになった絵本がある。同名の絵本「あまみの唄あそび くろうさぎはねた」(2011年、海風社)だ。当初はCDと同時発売のつもりだったが、CDだけ遅れた。RIKKIさんは発売を掛け合った何人かの人に「沖縄の島唄ならすぐ出せるけど、奄美だとちょっと」と言われたことを覚えている。 絵本は、表紙をはじめ、すべての絵を絵本作家の石川えりこさんが描き、詩はすべて幸田さんが書いた。 絶滅危惧種アマミノクロウサギを思った詩はこんなふうだ。〈こんやはなにしてあそぼかな ちいさなみみをはずませて つきよにうたうくろうさぎ ぴゅーいぴゅい ぴゅーいぴゅい〉 奄美に伝わる妖怪「けんむん」も大事なキャラクターだ。赤い毛に覆われていて、カッパのように頭に皿があり、魚の目玉が大好物。子どもと相撲を取って遊んだりするが、ガジュマルの木を切るとたたりをもたらす。自然の守り神のような存在で、沖縄に伝わる木の精キムジナーとも似ている。〈けんむんけんむんあそぼうよ がじゅまるきのうえかくれてる〉
瑠璃色がきれいなカラスの仲間ルリカケスは、絵本の中でなぜか泣いている。姿は美しいのにギャーギャーと汚い声でしか鳴けないからだ。〈なみだをこらえてたえてきた かなしいじだいがありました〉〈わたしはるりいろルリカケス〉 「涙をこらえた悲しい時代」とは、なんのことだろう。幸田さんに聞いてみた。「薩摩藩による支配と黒砂糖づくりの重労働が奄美の受難の第一。もう一つは、米軍統治下に置かれて日本ではなくなった戦後の時代です」 絵本では、ほかにも多くの動物たちが色とりどりに描かれている。フクロウ、コウモリ、ヤドカリ、フナムシ、ウミガメ、クロブタ、ハブ、熱帯魚たち。 ▽孤高の画家田中一村 絵本に登場する「せいたかのっぽの一村さん」は、晩年を奄美で過ごした孤高の日本画家田中一村のことだ。 1960(昭和35)年ごろに千葉から移り、奄美に定住するようになった一村は、つむぎ工場で染色工として働きながら絵を描き、切り詰めた生活の中で島の風景や自然を描き続けた。1977(昭和52)年、無名のまま奄美で69歳の生涯を閉じた。