パリ五輪自転車トラック 窪木、悲願のメダルへ 敗退糧に残り2種目
【パリで本社報道部副部長・鈴木宏謙】古殿町出身の窪木一茂(35)=ブリヂストン、学法石川高出身=の2度目の挑戦が幕を開けた。5日(日本時間6日未明)に行われた、パリ五輪自転車トラック男子4000メートル団体追い抜き予選。日本は敗れたものの、窪木は「僕自身の力は発揮できた」と手応えを口にした。8日(同9日未明)は8年前の前回出場時、苦杯をなめた個人種目オムニアムを走る。「メダルを取るために来た」。日本中距離陣の大黒柱は競技の本場で、最高峰の勝負に挑む喜びを力に変え、表彰台を目指す。 ◇ ◇ 「研ぎ澄まされる感覚」に襲われた。8年ぶりの五輪の舞台は「世界で一番自転車が熱い国(窪木)」のフランスだ。パリ近郊の専用施設サンカンタンアンイブリーヌ・ベロドロームは開始前から満員。各国からのファンの視線と声援…熱気を全身に浴び、こわばる体を懸命にほぐした。全体5番目に日本の出走番が来ると、一礼してバンクに上がり、愛車にまたがった。
団体追い抜きは4人一組で、1周250メートルのバンクを先頭を代えながら16周してタイムを競う。日本は2月の世界大会で日本新記録3分50秒381を出した窪木、橋本英也(30)の両ベテランに、若手の今村駿介(26)、短距離が主戦場の中野慎詞(25)という顔触れで戦った。急造布陣での出場は、短距離重視の編成方針に基づく。 5月下旬の代表発表後に練習を積んできたが、結果は3分53秒489で10チーム中、最下位。1回戦に進む8位以内を逃した。最年長の窪木は率先して先頭を担い、仲間に声をかけて鼓舞した。レース後は吹き出る汗を拭い「個々のレベルを上げないと戦えない」と力不足を認めつつも、1992年バルセロナ五輪以来となる団体追い抜き出場を「大きな前進」と誇った。 27歳でオムニアムを走った2016年リオデジャネイロ五輪は14位。「歯が立たなかった」と悔しさだけが残った。東京五輪での雪辱を期し、2018年に武者修行先の欧州から戻って名門ブリヂストンの門をたたいた。自国開催の舞台への切符を逃すと、今度は競輪に挑んで心身を磨いた。
鍛え抜いた走力と豊富な実戦経験をパリ五輪出場枠を巡るレースで発揮。中距離陣のエースの地位を確立し、35歳にして団体・個人の計3種目を任された。 1種目を経験できたのはオムニアム、橋本と2人一組で走るマディソンを戦う上で好材料だ。観客席に普段の大会にいない日本の知人の姿を見つけ、五輪の特別さを再認識した。「メダルを取るために来ている。そのためにやってきた」。高ぶる心を静め、残り2種目に全精力を注ぐ。