「土佐の寅さん」笑い届けて28年、全国巡業達成…「夢かなえて感無量」
「土佐の寅さん」の愛称で親しまれている高知県四万十市のアマチュア漫談家・間六口(はざまむくち)(本名・坂本純一)さん(78)が11月14日、岩手県矢巾町で公演を行い、28年間かけて臨んできた47都道府県での巡業を達成した。公務員として働く傍ら芸能活動を始め、全国に笑いを届けることを目標としてきた間さんは「夢を達成できて感無量」と充実した表情を浮かべた。(福守鴻人) 【写真】寅さんの「そっくりさん」たちと話をする参加者
「ジャンジャンバリバリ売っちゃうよ。持ってけ買ってけ300円!」「ジャンジャン鳴るのは半鐘の鐘。ゴンゴン鳴るのは寺の鐘」――。
矢巾町内の公民館で毎週木曜に開かれている「お茶っこ会サロン」。間さんは集まった約40人の高齢者らを前に、十八番(おはこ)の「バナナのたたき売り」などを披露した。七五調のリズミカルな口上に、会場は何度も笑いに包まれ、参加した女性(74)は「話の一つ一つに引き込まれた。日頃のストレスが全部吹き飛んだ」と声を弾ませた。
四万十市出身の間さんは、幼い頃から大のお笑い好き。高校3年の時、大道芸人を夢見たが、父親の猛反対を受け、公共職業安定所(ハローワーク)に就職した。
転機は45歳の頃。同級生が白血病で亡くなり、自身も不整脈を患った。「いつ死んでも後悔しないように、自分の好きなことをやって人を喜ばせよう」。命のはかなさを知り、一度は心の奥にしまいこんだお笑いへの夢が再燃した。口上集の本やカセットテープを購入し、内容を丸暗記するまで一心に芸を磨いた。
50歳の頃から、かつて憧れた「フーテンの寅さん」の格好で福祉施設などを慰問して回った。神奈川県で披露した口上がうまくいった成功体験から、「全国行脚」が目標に。四国を手始めに28年かけて全国各地で公演活動を続け、その回数は1700を超える。7月から青森、秋田を回り、11月の岩手公演で夢だった全国行脚を終えた。
巡業先では地域のイベントやお祭りが年々姿を消し、住民同士の談笑の場が減っていると肌で感じた。「笑いというのは、人を元気にしたり幸せにしたりする魔法の妙薬みたいなもの。アマチュア芸人だからこそ、過疎の町の小さな会場にも、くまなく笑いを届けられた」と自負する。
一度諦めた夢を達成した今、脳裏に浮かぶのは、行く先々で出会った人々の笑顔だ。「お世話になったところへまたフラッと出かけて、もう一度皆さんに喜んでいただきたい」。風の吹くまま気の向くまま、また軽やかに歩き出した。