企業の価格設定スタンスが強気にシフト 日銀はどう見る?
4月3-4日に発表された日銀短観(3月調査)では、日本のデフレ脱却を印象付けるいくつかのデータが得られました。これは同時に日銀の次の一手が金融緩和の縮小、すなわち「出口」であるとの筆者の認識をサポートしています。(解説:第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一)
人手不足がより深刻なのは中小企業
日銀短観で目を引いたのは著しい人手不足感。雇用人員判断DI(全規模・全産業)は「最近」が▲25、「先行き」が▲26とバブル期に匹敵する領域に突入(マイナスは人手不足)。特に人手不足が深刻な中小企業・非製造業の雇用人員判断DIは「最近」が▲34、「先行き」が▲37と圧倒的。 このことは近年の中小企業における賃金上昇率加速に関係している可能性が高く、賃金の決定要素が「業績」から「人手不足」に移行しつつある可能性を示唆しているようにみえます。実際、近年の賃上げ率は大企業よりも中小企業の方が勢いづいていますが、これは中小企業の方が深刻な人手不足に直面していることが大きいと考えられます。このように日本経済が構造的な人手不足に直面していることからすれば、先行きも賃金上昇圧力が途絶える姿は描きにくいです。
「企業物価見通し」から読み取れる物価上昇傾向
4日に発表された企業の物価見通しも注目に値します(日銀短観は2日に分けて発表される)。この指標は企業に対して「物価全般」と「(自社の)販売価格」の見通しを調査するもので、2014年3月調査から公表されていますが、両者とも16年央までほぼ一貫して低下してきた経緯があり、2%目標達成の難しさを象徴する指標となっていました。人々の予想インフレ率を上向かせようとしている日銀にとって厄介なデータであるに違いありません。もっとも、この指標はわずか3年の歴史しかなく、そしてこの間に原油価格の大幅下落というかなり特殊な事象があったことを踏まえると、ここで示される数値の低下そのものは、ほとんど本質を映し出していないように思えます。 とはいえ、「物価全般の予想」と「販売価格の予想」の差をみれば、そこから企業の価格設定スタンスをある程度推し量ることはできるでしょう。3月調査の数値を確認すると、全規模・全産業の物価見通しは1年後が前年比+0.7% (12月調査+0.7%)と変化がみられなかった一方、販売価格の見通しは現時点との比較で1年後が+0.4%(12月調査+0.3%)となり、上方シフトしました。ここで企業の価格設定スタンスを計測するための一つの尺度として「擬似価格設定スタンス」(「販売価格の見通し」から「物価全般の見通し」引いたもの)を確認すると、その値は▲0.3となり14年3月の調査開始来の最高を記録しています。小数点1桁単位の荒削りな尺度とはいえ、企業の価格設定スタンスが強気に傾斜している可能性を示唆しているようにみえます。