SNSの「ハッシュタグ」が国民を動かす…オードリー・タンが考える、今の政府に必要不可欠な2つの「素養」
コロナ禍において国民全員にマスクを配布するシステムをわずか3日で構築し、世界のグローバル思想家100人にも選出された若き天才オードリー・タン。自身もトランスジェンダーであるタン氏が、日本の若者に向けて格差やジェンダー、労働の問題からの「解放」をわかりやすく語る『自由への手紙』(オードリー・タン著)より抜粋してお届けする。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 『自由への手紙』連載第28回 『約束を破る中国と絶望の中の香港…台湾の若き天才が香港に「恩返し」したいと語るワケ』より続く
香港の運動スローガン「水になれ」
香港市民のほうからも、世界に教えてくれていることがあります。なかでも素晴らしいのは、彼らの運動スローガン「水になれ」という考え方です。 リーダーは一人ではない。 何千何万の人が、それぞれリーダーになりうる。 このことを、「水になれ」というスローガンは教えてくれます。 人間一人ひとりがもつイマジネーションの可能性は無限大です。 いかに優れていようと、いかにカリスマであろうと、「たった一人のリーダー」よりも大勢の、一人ひとりの力が重要です。 ハッシュタグという手段もまた、「水になれ」につながるものだと思います。 ハッシュタグには、市民を動かす力があります。もっともこれは人ではないから、厳密にはリーダーではありませんが、しかるべきハッシュタグなら、人間のリーダー一人が動かすより、はるかに多くの人を動かすことができるでしょう。 「水になれ」式の発想は、まさに道教の思想そのままです。 道教を心に留めておくことは、希望を失わないためにも役に立つでしょう。
政治家よりも#(ハッシュタグ)が影響力をもつ
新型コロナウイルスが広がる不安のなか、日本ではこれまで以上の法規制や秩序を求める人々が増えるいっぽう、民主主義の危機が進行中に思える、これは自分たちの政府が信頼できるか否かと関係している、という声があると、このインタビューで聞きました。 私が思うに、日本のみならず多くの人々は、自分たちの国の代表になる立候補者より、ハッシュタグのほうに親近感があるのではないでしょうか? これは私たち政治家に突きつけられた課題でもあります。 かつては、それほど強くはないにしても、有権者は代表者に親近感を感じ、民主政体で政治を行う者に対してもいくぶん親近感がありました。 国によっては国民投票のような直接投票をしており、そのことによる親近感はあったでしょう。こういった統治機構は、民主主義を意味あるものにしていました。 しかし今は、ハッシュタグがたいていの政治家よりも文字どおり多数の市民を動かしており、市民たちはお互いに対して、少なくともお互いのハッシュタグに対して親近感を覚えています。それは自分たちの代表者への親近感よりも強固なものです。だから民主主義は時代遅れのように感じられるのだと思います。 政治家が国民と向き合うのは選挙のときのみで、しかも代表の更新は4年ごと。こんなに狭い帯域幅では、インターネットのアナログ回線でのろのろと少しずつデータを送っているようなものです。大多数の国民の必要十分にはほど遠いでしょう。